第84話:サザーランド王都5
ラグとオーカスは宿屋の看板を見つけると地竜から降りた。
オーカスは宿屋の建物を見ながら言った。
「鍵の継承者に会えるまで、暫くここに滞在しましょう」
サザーランド王都の滞在を決めたオーカスは、隊長というプライドが手伝ってケルティックの誰かに会えるまでは移動しないと意地になっているようだ。
ラグは地竜から積み荷を下ろしながら言う。
「朝昼晩の食事に酒をつけてくれるなら、俺はいくらでも滞在するぞ」
オーカスは、酒好きのラグを見て呆れた表情になって荷物を持って宿屋に入る。宿の主人に鍵をもらい、部屋に入ると荷物を下ろした。
ラグもオーカスの横に荷物を下ろす。
今もラグから香水の匂いがする。オーカスの鼻に入ってくる甘い香りは、嫌な香りではないのだが、なんだか腹が立ってきて、オーカスは苛立ちながら口を開いた。
「やっぱり酒はやめて下さい」
「はあ!?」
ラグは剣を壁に立てかけた恰好で振り返る。
「さっきは程々にしろと言ったじゃないか。なんで言う事がコロコロと変わるんだ? 今日のお前は変だぞ」
オーカスの表情は怒っている。
「私は、女性を両脇に抱えて酒を飲む事を許した覚えはありません」
「店の女が酌をするぐらいいいだろ。それになんでお前が俺に指図をするんだ?」
オーカスは酌をしてもらう程度だったのかと思いながら言った。
「私はシーライト将軍から鍵の継承者の護衛をするように仰せつかっております。ラグを護衛をする立場上申し上げれば、酔っている時のラグは、極端に剣の動きが悪くなる。もしその時にサザーランド兵に囲まれでもしたら逃げられなくなります。酌をする店の女性だって刺客の可能性がないこともない」