第82話:サザーランド王都3
喜んで果物を食べる地竜を見てオーカスは男に会釈をした。
「有り難うございます。でもよかったのですか?」
男は地竜の首を撫でながら言う。
「ああ。余りものだから。ここには観光か何かで来たの?」
オーカスはとっさに思いついた答えを言う。
「はい。観光で来ました。戦争も終わり最近は落ち着いてきたので、旅をしていろいろ見て回ろうと思いまして」
男は慣れた手つきで地竜をあやしながら言う。
「ならちょうどいい」
「え?」
「俺はニック。このサザーランドの王都でガイドをやってる。食事付きで、その都度チップをくれれば、行きたい所に案内するし、そのほかなんでもサービスするぜ。君の夜のガイドも喜んで引き受けるよ」
ニックは素早く、そして優しくオーカスの腰に手を回す。
「王都を観光する間、俺を雇わない?」
ニックの声はラグよりも優しくオーカスの鼓膜の奥に響く。
オーカスは「雇います」と首を縦に振りそうになるが、任務を思い出してニックの腕からスルリと逃げた。
「いえ。私は地図を持っていますし、連れもいるので結構です」
「連れって友達? それとも愛人?」
「愛……」
オーカスの顔が真っ赤になった。
ニックはオーカスの新鮮な反応に興味津々の表情を浮かべる。
「もしかして、まだ経験が無いのかな。あんた。貴族に見えるんだけど、同性とも経験が無いの? 貴族の剣士様は、異性と経験する前に同性と。って、相場が決まっているんだが」
オーカスは赤い顔を引きつらせながら言った。
「私の、つっ、連れは愛人ではなく……。私には、そういう習慣もありません」
かなり動揺してオーカスが舌を噛みながら言っていると、オーカスの目の前に大きな左手が現れた。手はオーカスの胸を押してオーカスを後方へ移動させる。その小指には金色の指輪が填まっていた。
「悪いが、こいつの連れは、俺だ」
ラグが現れてオーカスの前に立った。