第80話:サザーランド王都1
オーカスはケルティック家に向う。
「身元を明かさなければ危険なんてないのに」
ラグと別れたばかりのオーカスは、考えの合わないラグの不平不満を口にしていた。身の危険があると言ってケルティックの屋敷の門すら見ようとしない気の小ささと、気に入らない事があるとすぐに酒を飲んで紛らわすラグの行いに疲れを感じていた。
ケルティック家の屋敷は王宮の隣にあった。ただし、広大な敷地同士が隣接しているため、王宮とケルティック家の屋敷はかなり離れているように見える。
オーカスは管理されて綺麗な花々が咲く公園のような敷地を回りこんでケルティック家の屋敷へと地竜を移動させた。
ケルティック家に近づくにつれ、巨大な大理石を削って作られた柱が見えてくる。屋敷は4階建て。それを支える長くて太い柱は、加工するのに相当な資金が必要だったろう。
4階までの高さがある大理石の柱を見ているオーカスの瞳に、古代から続くケルティック家の富と繁栄の軌跡が映る。
もう暫く地竜を進ませると柱と同じ大理石で作られた門があるのだが、ケルティック家の屋敷は門を潜り広大な庭園を抜けた先にあった。
とりあえずオーカスは門の前に来た。ケルティック家の屋敷はまだ遠くにあり眺める事しかできない。ケルティック家の門番と目が合い、オーカスは観光客を装い愛想笑いをしてみせる。門番と話ができる距離にいるのだが、ラグの冷やかしが気になり、鍵の継承者に会うための口実も思いつかない。オーカスは広大な敷地と奥ある立派な屋敷を見て立ち去ることしかできなかった。
「部隊での行動と違って、単独行動は心細いですね」
溜め息を吐きながら地竜の上で揺れているオーカスを、ケルティック家の屋敷の4階の窓から眺めている金髪の男がいる。
オーカスはそれに気づかないまま、ラグと待ち合わせている国立公園の広場へ向かった。