第75話:終わりなき痛み1
最近は気がつくといつも目蓋に光を感じる。そう思いながらラグは目を開けた。宿の窓際にはいつもの如く、茶髪を後ろでまとめて紐で結び、きちんと身形を整えたオーカスがいるのだが、その姿がオフェーリアだったので、ラグは飛び起きた。
「オフェ……!」
言い掛けて、振り返った顔がオーカスだったので、ラグは開けた口を閉じて、ついでに目も閉じた。
オーカスは外の景色を眺めながら、報告のためにローラン城に向けて魔法通信を行っていたのだろう。もう魔法通信が終わったのか、ベッドの上で首を項垂れて座っているラグに声を掛けた。
「また、うなされていたようですが?」
ラグは首を項垂れたまま言う。
「お前は、いつも朝の挨拶をしないな」
「あ、申し訳ありません。目覚めた時は、おはようございます。でしたね。いつもうなされていらっしゃるので、心配になってしまって、朝の挨拶を忘れておりました」
ラグは片目を開けて恐る恐るオーカスを見る。窓際にはオフェーリアではなく、オーカスがいる。ホッと胸を撫で下ろしてから両目を開けた。支度をするために上着を取ろうとして伸ばした左手の小指には土の指輪が填まっている。ラグは上着を取ってから小指の指輪を眺めた。
オーカスもラグの小指の指輪を見て言う。
「ラーグ殿が眠っていらっしゃる間に、指輪が取れないものかと思い触ってみたのですが、やはり取れませんでした」
上着の袖に腕を通したところでラグの動きが止まる。
「ラーグじゃない。ラグだ」
言い切ってから上着を羽織り肩の位置を合わる。
オーカスは向き直って言う。
「どうしてラーグ殿とお呼びするといつも怒るのですか? リー家の一件が終わりこの数週間、二人でいる時にすらラーグ殿と呼ばせて頂けないのはなぜですか? 火の鍵の魔力を使い、賢者リーにも認められて土の指輪を手にされた今、鍵の継承者の護衛である私の前で御身を偽る必要はないかと」
ラグは支度をしている手を止めた。窓際に立っているオーカスに急に迫り、オーカスの耳の横の壁に思いっきり手をついた。