第72話:土の意思4
オーカスはラグに大声で言われても臆す事なくラグの手を握り、小指にある指輪を触っている。
「変ですね。ラーグ殿は火の鍵の継承者で、継承者違いなのに、指輪が抜けないなんて――。指輪を填めてみたくて無理に押し込んだのではありませんか?」
ラグは違う所に反応する。
「ラーグと呼ぶな。ラグだ」
「ラグでもラーグでも、どちらでもいいではありませんか。それより、早く指輪を取らないと」
オーカスは指輪を回してみる。
指輪は小指を軸にして素直に回転するが、抜こうとすると何かが引っ掛かっているかのように抜けない。
ムキになってオーカスが指輪を触っていると、ラグの中で賢者コトックの声がした。
『賢者リーからの伝言だ。ここはカレンの遺体があった場所です。カレンの遺品を見つけてくれて有り難う。土の鍵は次の継承者に渡して下さい。それまでは今の指輪の持ち主であるコトックの末裔と行動を共にします。との事だ』
ラグは残っている右手で顔面を覆って溜め息を吐いた。
「そういう事か」
爺さんの声より女性である賢者リーの声で言って欲しかったと男心に思っていたりもする。息を吸い込んでから、オーカスに賢者コトックの伝言を伝えた。
伝言を聞いたオーカスはラグの左手を握りながら指輪に訴えた。
「えぇー、そんなぁー。なんで私の指にしてくれないのですか? 土の鍵があれば、雷の魔法使いである私の弱点が無くなり、強力な土の鍵の魔力が使える雷の魔法使いになれるのに。魔法が使えないラグを選ぶなんて……」
うらめしいとラグを見る。
ラグは左手をオーカスに委ねたままふて腐れた。
「知るか」
このオーカスの嫉妬は、指輪をリーの継承一族に返すまで続くのだが、今のラグには知る由も無い。
その日のうちにサザーランド国王に一報が届く。リー家の屋敷全焼。魔物退治に向かった剣士二名の消息不明。土の鍵、未だ見つからず。と。