第66話:リー家の屋敷16
ラグを包む淡い輝きは、ラグの体を離れて白い光となって男の姿を象った。
ラグに似た輪郭を持つ光は、白い影に言った。
『賢者リーよ。何故心を乱し荒ぶるのか?』
物腰の落ち着いた中年とも老人ともとれる男の声が室内に響く。
その言葉により、全てのゾンビと蔓の動きが止まる。辺りは一斉に静まり返った。
白い影の動きも止まり、逆立っていた髪は静かに下りて垂れ下がる。白い影は、男の姿をしている白い光の問いに答えた。
『賢者コトックよ。誤解するな。私は守っているだけだ』
白い影の返事に対して、白い光の声は強く響く。
『傷つける事は、守る事にあらず!』
白い影も対抗して声を響かせる。
『傷を欲しがる者が我が前に立てば、傷を負うのは致し方ない事!』
オーカスは二人の賢者の会話を聞いて驚く。
「賢者のスピリットが二人も現れるなんて」
賢者リーは賢者コトックの言葉を聞き怒りを露わにするが、賢者コトックは至って冷静に賢者リーを宥め諭していく。
『リーよ。思い出すのだ。あの時の我らの誓いを。大地に恵みをもたらし、民を、我が子をあらゆる禍から守り』
白い光となっている賢者コトックの言葉のあとに、白い影の賢者リーが言う。
『友の身に危険が及ぶ時は助け、我ら鍵の魔力を持つ者は、常に力の均衡を保ち、平和を願い静かに暮らす。皆と交わした誓い、どれほど時が経とうとも忘れるものか』