第56話:リー家の屋敷6
オーカスの頭の中で、英雄ラーグのシルエットが浮かび、目の前のラグと重なる。
「ラグ殿……」
オーカスが見守る中、ラグは瞳を開いて三回ほど瞬きをする。涙は無くなったが瞳はまだ潤んでいてアメシスト色に艶立っている。その目でラグは辺りを見回しながら言った。
「どこかにこの子たちの母上がいるはずだ。探さねば」
オーカスは記憶を巡らす。
「確か王宮書庫にあった資料によると、現在リー家の鍵の継承者は、リー家の長女で三児の母親のはずです」
「鍵の継承者が長女で母親。余りにも似過ぎている」
呟いたラグの言葉を、オーカスは聞き取れずまた聞き返す。
「え? 今なんと?」
ラグはアメシスト色の目を見開いて、オーカスに聞こえるように少し大きめの声で言った。
「まだ母親の死体が見つかっていない。この子たちの母親を探すんだ。二手に別れて、ほかの部屋を見て回るぞ。分担したほうが一緒に回るより早いからな」
オーカスは聞き取れなかった言葉がなんだったのか知らないまま返事をする。
「そうですね。分かりました」
ラグとオーカスは、リビングを出て二手に別れた。
白い影がリビングの中に現れた。影はリビングの中を移動して廊下に出て二手に別れたラグとオーカスを交互に見る。
「やっぱり鍵を求めて来たのね。懲りもせず次から次へと。許さないわ」
白い影は、長いストレートヘアーでスマートドレスを着た女性の姿になると静かに消え去った。