第50話:リー地方の宿屋2
オーカスは嬉しくなってラグの隣に並び、衣類を手渡したりして、ラグの支度を手伝う。
「私は何人もの部下を束ねる隊長ですから、一人の面倒をみるくらい、どうって事ありません」
「そういえば、お前は現役の隊長だったな。俺より小さくて筋肉もそれほどないのに」
ラグはオーカスの頭に手を置く。
「十七歳で、複数属性の魔法を使いこなす。もしかするとシーライト軍最強の魔法使いになれるかもしれん」
「なれるかもじゃなくて、私はシーライト軍最強の魔法使いなんです。そんな訳ないか」
オーカスは言ってから笑うと、ラグも釣られて小さく笑った。初めて見たラグの笑顔。オーカスの驚きは、その後も暫く続いた。
昨日のラグはリー家の屋敷を見てから機嫌が悪く、宿に着いてからは殆ど話さず考え込み、オーカスは更に近寄りがたくなったラグを扱いかねていたが、朝は一転して機嫌の良いラグの態度が嬉しくて、オーカスは軽いステップを踏みながらラグについて回っている。
支度を終えたラグとオーカスは、宿の主人に宿代を支払うと外に出た。
宿の近くには市場があり、宿の前の通りを店の主人や行商人など仕入れ目的の人々が行き来している。
オーカスは地竜の世話をしていた少年に銅貨を渡すと地竜に跨った。
ラグも地竜に跨る。そしてまた、ラグが先に口を開いた。
「すぐ近くに飯屋がある。そこで朝食を済ませたら、またリー家の屋敷に行くぞ」
「え!?」