第5話:シーライト将軍2
側近が全員出て行ったのを確認してからローラン国王はシーライト将軍に話しかけた。
「サザーランド国内が騒がしくなってきた。もしかすると、また戦いが始まるかもしれん。そうなれば、シーライト将軍にも、いろいろと頼む事になると思うが。戦いを回避できぬ余の考えは浅いだろうか?」
伺い口調でシーライト将軍を横目で見るローラン国王に、シーライト将軍は二重の瞳を向けて言う。
「いいえ。サザーランド国の目的は、わが国にある2つの鍵を手中に収める事。神々と交わした契約上、本来、一国の王が鍵を求めるのは、ユーフォリア存続の危機のみ。しかも、鍵の継承一族の合意が必要です。神々と交わした契約を守る上でも、我々は、無為に鍵を狙うサザーランド国王から、我が国の鍵を守らねばなりません」
酒で頬をピンクに染めるシーライト将軍はまだ若い。将軍として、国を守ろうとするのは当然の事だが、若くて優美な将軍が国を守るために返り血を浴びながら戦う姿を想像し、ローラン国王は戦いを回避できない無能な自分に情けなさを感じて表情を暗くさせてしまう。
「もし戦争が始まれば、その時もやはり、そちは戦場の最前線に赴くのか?」
「はい。もちろんでございます。敵の飛空艇を落とすのに、兵士の魔力は弱過ぎるので、どうしてもわたくしが持っている鍵の魔力が必要になると思います。それに、わたくしも鍵の継承者として義務を果たすために、賢者シーライトが暮らしたこの地を、ローラン城があるこのシーライト地方を守らなければなりませんので」
挫折経験の無いシーライト将軍の自信に満ちた声を聞き、ローラン国王は肉に手を伸ばしながら苦笑する。
「余は、そちを幼い頃より見てきた。そのそちを最前線にやりたくはないのだが、鍵の継承者としての義務があるのでは、それも無理か」
ローラン国王は回想する。次期鍵の継承者としてローラン国王に謁見をするために、軍人である父に手を引かれてローラン城に初めて登城した幼い頃のシーライトを。
「鍵は今も所持をしておるのか?」
「はい。ここに」
シーライト将軍はアクアマリン色の瞳でローラン国王を見据えて胸に手を当てる。
ローラン国王は肉の入った頬を膨らませながらシーライト将軍の胸元を見た。
シーライト将軍は、酒で濡れて艶を帯びた薄めの唇を動かして微笑む。
「また鍵をご覧になりたいのですか?」
「うむ。見せてくれ。古の神々が創りたもうたという秘宝を守る鍵を」
シーライト将軍は、軽装備の下から見えているタートルネックに手を入れて鍵を取り出した。