第46話:リー地方3
農民はラグの顔色を見ながら、怖々とオーカスに手を差し出した。
「リー家の屋敷はあっちです。暫く行けば蛻の殻になった屋敷が見えるはずです」
「有り難う。怖い思いをさせてすまなかったね」
オーカスが農民の手に銅貨を置いているうちに、ラグは地竜を走らせてオーカスより先にリー家の屋敷へ向かう。
「待って下さい。なぜそんなに急ぐのですか?」
オーカスも急いでラグを追いかけた。
農民の言うとおり、暫く地竜を走らせた先にリー家の屋敷はあった。
到着したラグは、地竜の手綱を引いて屋敷の周りを回る。
リー家は、貴族なだけに屋敷はそれなりに大きく、壁や柱には細工が施された浮き彫りがある。しかし今現在は、襲われたという農民の話のとおり、屋敷の窓ガラスは割れており、庭は雑草が生い茂っていた。
その雑草の間から崩れた塀と穴が開いた屋敷の壁が見えてくると、ラグの表情が険しくなった。無意識に口から言葉が漏れる。
「ここもなのか」
追いついたオーカスがラグの横に地竜を並ばせる。
「酷い有り様ですね。賊はあそこから進入したのでしょうか?」
オーカスは壊れた塀を指さしてラグを見るが、ラグは口を横に結んで何も言わない。険しい表情を壊れた塀に向けるだけである。
ラグは暫く屋敷を眺めていたが、突然地竜の頭の向きを変えた。
「宿を探すぞ」
珍しいラグからの言葉に、オーカスも地竜の頭の向きを変えて、ラグについて行く。
「あ、はい。でも急になぜ?」
「なんで俺に聞く? 到着したら宿に泊まると言ったのはお前じゃないか」
「そうですけど」
オーカスは急に機嫌が悪くなったラグに渋々ついて行く。
そんな二人を、屋敷の中から静かに見ている白い影があった。
白い影はラグとオーカスの腰にある剣を見て言う。
「また来たのね」
声からすると、女性のようだ。
白い影は庭に出ると雑草に隠れながら崩れた塀まで移動して、去って行く二人を見送った。