第43話:湖の畔4
ラグは焚き火の前に来たオーカスの横顔を見た。長い睫毛にバニラ色の肌。薄めの唇はほんのりと淡い桜色をしている。少年とも少女ともいえる中性的な顔のつくりは、オーカスがまだ十代であるという証なのだ。ただし、今日に限って目が充血していた。
「俺のせいで眠れなかったのか?」
「いえ。睡眠はきちんととりましたよ」
ラグは焼けた魚を一度受け取ってからオーカスに返した。
「お前が先に食べろ」
「いいですよ」
「いいから、食え!」
オーカスが断ると、ラグはオーカスの前に焼けた魚を置いた。
ラグは立ち上がって旅支度を始める。
「ラグ殿は食べないのですか?」
「あとで食べる。残しておいてくれ」
そう言ってラグは、オーカスが食事をしているうちに、自分の分とオーカスの分の旅支度をすませてしまった。
一仕事を終えて戻ってきたラグに、オーカスは焼けた魚を渡す。
「ラグ殿。私の分まで旅支度をして頂き有難うございます」
「気にするな」
ラグはぶっきら棒に返事をすると地竜に跨った。
オーカスも急いで地竜に跨りながら聞く。
「ラグ殿。もう出発するのですか? 魚は食べないのですか?」
「今から食べる。寝るとき以外、休まず移動して北へ向うんだろ?」
ラグは地竜を歩かせながら焼けた魚を頬張った。
不言実行という言葉がある。ラグは黙々と動いて自身の旅支度はもちろん、オーカスの旅支度もする。剣の腕が立つとはいえ魔法使い特有の華奢な体格をしているオーカスにとって、ラグが率先して肉体労働をしてくれるのは有り難い限りなのだが、ご機嫌とりというより鍵の話題から逃げているように思えて、オーカスは縮まらないラグとの距離に疲れを感じてまた小さなため息をついた。