第41話:コトック家13
またラーグの脳裏に戦争の記憶が蘇る。
ローラン国の民を守るという使命を胸に向かった戦場。最初は死んでいる兵士を見て、早く戦いを終わらせて家に帰りたいと思い必死に戦った。次に助けを請う兵士を助けても、彼らはまた敵となって目の前に現れる恐怖を知った。そして戦いを続けていくうちに、殺されるより殺した方がマシだと思うようになり、剣を振り下ろす前に生じる躊躇いは微塵も感じなくなった。
敵を殺す事は手柄を立てる事。副隊長になる昇級の喜びを知り、上を目指して更に戦い続けた。周りから副隊長と呼ばれ求められ答えていくうちに、神になったような気分になり優越感にも浸った。
戦いに明け暮れ邁進していたあの頃は、ラーグ自身にとってどれほど甘美で心地良い時間だったか。
その恐ろしくもおぞましい感情は、アルランドの戦いの時にラーグの中に生まれた。ラーグは親友ジェイローを亡くしてやっと自身の愚かさに気づいたが、時既に遅く、アルランドの街全てと敵味方を無差別に燃やし尽くしてしまったラーグに国王は英雄の称号と褒美を送り、人々はラーグを見るたびに賞賛を口にする。ラーグにとっては、どんなに祝福が篭もった言葉でも、己を呪う呪詛としか思えず、罪悪感と死の恐怖に苛まれて上げ下す毎日が続いた。その苦しみから救ってくれたのはオフェーリアだったのに。オフェーリアも今は灰になってしまい姿形は残っていない。
「イヤだ。やめてくれ。こんな思いをするのは、もう沢山だ。イヤだぁー」
ラーグは体を輝かせながら、この身から放出される魔力を拒絶したい一心で叫んだ。しかし、ラーグの思いに反して体内から発動する火の魔法は魔力を増すばかりだった。