第34話:コトック家6
コトック卿は床に手をついて口から血を吐いている。重力の加重により内臓が潰れたのだ。
「父上。今、お助けします」
「来てはならぬ。重力魔法を受けたら、お前の体も潰される」
ラーグは俊足で移動して重力使いと剣を交える。
「よくも父上を!」
「くっ。動きが早過ぎる。魔法の発動が間に合わん。これが英雄と呼ばれるお前の強さか」
ラーグの剣が重力使いの体をかすめ、破れた服の下から金色の糸で刺繍された紋章が見えた。
「それはサザーランド国の紋章!」
重力使いは手で紋章を隠すがもう遅い。
「くそっ」
重力使いは顔に焦燥感を表しながら重力魔法をラーグに投げる。
ラーグは俊敏に動いて重力魔法を交わし敵との間合いをつめていき、迫って来るラーグに恐れ慄いて動きが鈍くなった重力使いの目の前で、剣を翻して重力使いの体を縦に両断にした。重力使いの体が二つに分かれて床に倒れて動かなくなったのを確認してから、コトック卿に駆け寄る。
「父上。しっかりして下さい!」
「私は大丈夫だ。これしきの傷、傷のうちに入らぬ」
コトック卿は、床に剣を刺して杖の代わりにしてもたれかかり、片膝をつけて身を持ち上げていたが、重力魔法が解けてからは、ラーグが来たという安心もあり足の力が抜けて床に倒れた。
「父上!」
ラーグはコトック卿を抱き起こすが、コトック卿は既に言尽きていた。
「父上」
ラーグは涙を流す。コトック卿を静かに床に横たわらせてから、周りを見回す。
「オフェーリア。セーラ」
妻も妹も死んでいる。