第32話:コトック家4
コトック卿は周りを見回す。
「我が屋敷を攻撃したのは誰だ?」
民の暮らしをよくするために、いくつもの地方政策を打ち出してきたが、そのたびに反対意見も多く、逆恨みされる事も少なくはない。コトック卿の頭の中に反対派閥の面々がつぎつぎと現れる。
ラーグは先に進みガラスが割れた窓を発見する。
「父上。足跡が外に向っていてます。どうやらここから逃げたようです」
コトック卿は、壁に手をついて窓の外をうかがうが、夜の闇のせいでよく見えない。コトック卿は、剣にある魔法器に触れ土魔法を発動して窓の外を調べた。土魔法を使うコトック卿の脳裏に、地面の様子が3Dの立体画像となって浮かぶ。
地面にあるのは、雑草や木の幹、放射状に伸びている根、小動物や人間の足跡。ラーグが覗いている割れた窓ガラスの真下には、飛び降りたあと着地して逃げたと思われる足跡が複数あり、足跡は外へ向かって伸びていたが、外へは出ておらず途中で途絶えている。
「まだ、屋敷のどこかに潜んでいるのかもしれん。いいか、警戒を怠るな!」
使用人は、コトック卿の指示でそれぞれの持ち場へ移動する。
その時、新たな爆発音と共に女性の悲鳴が響き渡った。悲鳴はリビングからだ。
「キリエラ!」
「オフェーリア!」
二人は駆け戻ってリビングに入る。最初に目に入ったのは、床に倒れている血塗れの使用人の死体。その先で黒尽くめの剣士が妹セーラの首を掴んで持ち上げている。
セーラの手は力なく垂れ下がり、口からは泡を吹いている。
「セーラ!」
愛娘の名を叫ぶコトック卿。
妻オフェーリアは、既に首を切り落とされ床に横たわっている。
「オフェーリア!」
ラーグも叫ぶ。
キリエラは腹に剣が刺さった状態で床に座り込んでいた。
「キリエラ!」
コトック卿は自分の妻の名も叫ぶ。




