第29話:コトック家1
全焼前夜のコトック邸。
「おば様。これでいいですか?」
オフェーリアは、盛り付けた肉料理を、隣にいるキリエラに見せた。
キリエラは首だけを動かして隣の皿を見る。横を向くキリエラは、灰色の長い髪を上にあげてまとめているのが分かる。
「いい感じじゃない。でも直して欲しいことがあるわ」
「そ、それは……」
オフェーリアは不安な表情をする。
キリエラは、オフェーリアの表情を笑顔で見ながらフキンを取って手を拭いた。
「おば様じゃなくて、お母様。戦争が終わり、息子が無事に帰国して結婚したんだから、私の事は、お母様と呼んで欲しいわ」
「はい。お母様」
オフェーリアはすぐ笑顔になった。オフェーリアの栗毛の長い巻き毛は彼女の笑顔を一層引き立てている。
そんな二人に、別室にいる中年の男が声を掛ける。
「キリエラ。料理はまだなのか?」
「あなた。ちょっと待って。おば様、お母様と呼ばれて、今度はキリエラになったわ」
キリエラは、オフェーリアに言うと、盛り付けた料理を自分の夫がいるリビングへ運ぶ。
オフェーリアも料理を持って義母であるキリエラの後に続いた。
二人が移動したリビングは、広さがあるのはもちろんの事、漆喰の壁には絵画が飾られ天井にはシャンデリアがあり、貴族階級ならではの豪華さがある。
キリエラは料理をテーブルに置いて席に着く。
オフェーリアも料理をテーブルに置いて席に着く。
「料理などは使用人に任せておけばよいのだ」
偉そうに言う中年の男はキリエラの夫コトック卿のようだ。
「でも、たまには愛する人に手料理を作ってあげたいじゃない。ねえ。オフェーリア」
「ええ。お母様」
オフェーリアは頬を赤らめて返事をする。