第28話:湖の畔2
「お前は、天性の魔法剣士なんだな。俺は、魔法兵器だろうが生活道具だろうが、全ての魔法器が使えん。湯も沸かせないから、茶を飲むのにも人の手を借りんといかん」
ラグは、普段から物事に無関心なだけに、コトック卿の話題に興味が無くて話に乗ってこなかったのか、それとも理由があって態と話をそらしたのかが分かりにくい。
オーカスはラグの左耳についている銀色のイヤーカフを見る。
「持って生まれた魔力が弱いせいで魔法兵器が使いこなせなくて軍人になれない者は沢山おりますが、ラグ殿のように、家庭の魔法器も全く使えないというのも珍しいですね」
もしラグの耳についているイヤーカフが秘宝を封印している鍵だとして、強大な魔力を秘めた鍵を持つ者が魔法が全く使えないというのはおかしい。オーカスは、その理由を探る意味で言葉を続ける。
「ユーフォリアの人間は、皆、生活に必要な最低限の魔法器は使えるはずなのに」
「だよな」
ラグは沈んだ表情になった。
イヤーカフは、焚き火の緩やかな灯りを浴びて今はオレンジ色の光沢を帯びている。
それを左耳に付けているラグは、真相を知りたがっているオーカスの期待を裏切り、そしてオーカスの予想通りの短い言葉を口にするだけだった。
ラグがいつもの無視をしないだけ、まだマシな方かもしれないが、どちらにしても沈んだ表情のラグに言葉を続けていればいずれは無視を始めると思い、オーカスは話題を変える事にした。
「リー地方は、更に北へ進み二週間ほどで到着する予定です。この湖の向こう側に名も無き土地があり、湖の西側に沿って移動し名も無き土地を通って北上すればもっと早くリー地方に到着できますが、ご存知の通り、名も無き土地は砂漠地帯です。その砂漠地帯を越える日数分の水と食料を地竜に乗せるのは無理なので、多少移動日数はかかりますが、湖の東側を通って名も無き土地を迂回し、途中の町で水と食料を補給しながら移動する事にします。明日からは、夜の睡眠以外は休みなしの移動になりますので、リー地方に到着したらどこかの宿でゆっくり休む事にしましょう。それから鍵の継承者に会っても遅くはないと思いますので」
「ああ」
オーカスが話題を変えて明日の旅の予定を説明してもラグの沈んだ表情は直らなかった。
その後、いつもの如くラグの口数は更に少なくなり、夜が更けてきた事もあって、話し相手がいなくなったオーカスは、ラグより先に寝床に入った。