第27話:湖の畔1
ラグの反応を見てオーカスはまた笑う。
「でも、古代の文献によると、鍵には意思があると記されているので、鍵が身分の提示を求めてきたら、私は応じる覚悟でおりますけど」
「鍵に意思があるって!? そんなはずないだろ」
ラグは言ってから静かになった。林檎を口へ運んでいた手の動きが止まっている。
オーカスはそんなラグの様子をうかがいながら静かな視線を向ける。
「急に静かになって、どうしたのですか?」
「なんでもない。いちいち俺の事を気にするな」
ラグは、また林檎を食べ始めた。
ラグたちが向かっているリー地方は農耕作が盛んで、リー地方で作られたものはサザーランドの各地域へ出荷されている。ラグが今かじっている林檎もリー地方のものだろう。
ラグとオーカスは、まる一日地竜の背に揺られて北へ移動し、通りかかった湖のほとりで野宿をする事にした。
日が暮れて夜になり、ラグとオーカスは焚き火を囲んで座っている。
視線の先にある湖には夜空にある月が映り、その湖面は月の光を受けて静かに揺れる波が白く光っている。
「この湖は、ローラン国と同じ魚がいるんですね」
オーカスは魚を焼きながら言う。
「4、5日真東へ歩けばローランにたどり着く距離だからな。同じ魚くらいいるだろ」
ラグは焼けた魚を食べている。
「ラグ殿。足りなかったら遠慮無く言って下さいね。また魚を獲ってきますから」
「獲るって、さっきのように氷の魔法で凍らせて捕獲するのか? 俺はもうそんなに食えんぞ」
「いえ。今度は明日の朝食の分も獲りたいので雷の魔法を使おうと思っています」
ラグは魚の骨を焚き火に放り込んで燃やし、次に焼けた魚を取って食べ始める。
「国境の壁に穴を開ける時は、土の魔法。焚き木に火をつける時は、火の魔法。魚を獲る時は氷と雷の魔法。お前はいろんな属性の魔法が使えるんだな」
オーカスは焼けた魚を食べながら言う。
「ええ。本来、魔法兵器は強力すぎる魔力ゆえに、いかに訓練を受けた軍人といえど1つの属性魔法しか使えないはずなんですが、私は幼い頃から複数の属性魔法が使え、貴族の家に生まれた事もあって、魔法剣士としての教育を受けました。魔法兵器もそんな私に合わせて、コトック地方の工場で特別に作られた魔法兵器なんです。確か、アルランドの英雄の父君であるコトック卿も、ユーフォリアでは数少ない四種の属性魔法が使える魔法剣士だと伺っております。コトック卿が軍人だった頃、鍵の継承一族が強大な魔力を持つコトック卿を目に留められて、一族の薦めによりコトック卿は火の鍵の継承者であるキリエラ様とご結婚されたとか」
オーカスはラグにそれとなく鍵の話題を振るが、ラグは何食わぬ顔で6匹目の焼き魚を頬張っている。