第25話:サザーランド南西1
気がつくといつも暗闇の中にいる。次にカーテンを開ける音がする。いつもの早さで開けられるカーテンの音は、慣れてくると心地よくて安堵感に包まれる。ラグがそう思うようになったのはつい最近だ。目蓋に光を感じて一日の始まりを知り、生きる事が苦痛で永遠に眠ってしまいたいと思う事もなくなった。そう思いながらラグは目を開けた。
窓際には、きちんと身形を整えたオーカスがいて、外の景色を見ている。
これも見慣れた朝の風景だと、ラグは思いながら起き上がった。
オーカスは外の景色からラグに視線を移した。
「ちょうどローラン国への魔法通信が終わったところです。今のところローラン国内は平穏で変わりないそうです。ラグ殿。昨夜も、うなされていたようですが?」
いつもの事だが、ラグはオーカスの言葉を無視して、手早く身支度を終えて部屋を出て行く。ラグは階段まで足を進めるが、振り返ってもオーカスがいないので、まだ部屋に残っているのかと思い、戻って部屋を覗いた。
「なんだ、まだ外を見ているのか?」
オーカスは、まだ窓際に立っていた。さきほどラグに無視されたのに、それに腹を立てた様子も無く、いつもの笑顔でラグを見てから部屋の外へと歩き出す。
「ここから見えるサザーランドの街並みが綺麗なので、つい見とれてしまって」
ラグは、差し込む陽の光と、街並みの景色を背にして立っているオーカスに眩しさを感じて目を背けた。
「戦禍を逃れた街が綺麗なのは当たり前だ」
言葉を言い捨てて再び部屋を出て行くラグに、オーカスは小走りでついて行き、一緒に階段を下りた。
国境の壁を越えて数日、二人は別れることなく一緒にサザーランド国内を旅していた。
オーカスの説明では次の鍵の継承者は「サザーランドの北に住んでいる」らしい。
現在、サザーランドの南西にいる二人は、田舎町出身の貴族を装い観光旅行とい理由をつけて景色のよい小さな町を見つけては滞在し、少しずつ北へ移動していた。
オーカスと数日行動を共にしているラグは、未だに口数が少ないものの心境に変化が表れ、オーカスを待つようになっていた。
ラグとオーカスは、宿代を払うと外に出た。
外の通りは広く、地竜に乗って移動する人や、食料を積んだ荷台を牽引する事ができる大型の魔法器を操縦する人々が往来している。
ラグは店の看板を見ながら道端を歩く。
「さて、どこで朝食をとるか」
オーカスもラグの横について歩く。
「どこかで地竜と食料を手に入れて、食べながら移動しましょう」