第21話:リクナの国境3
サザーランドの兵士がオーカスとラグに気付いた。
「貴様ら、何者だ!」
オーカスは腰の剣を引き抜く。
「貴殿らに恨みは無いが、死んで頂く」
「何!」
オーカスは兵士と剣を交える。戦っている時のオーカスは真剣な表情になっている。もうラグをからかって笑う十七歳のオーカスはそこにはいない。
ほかの敵兵士が剣の魔法器に手を添えた瞬間、ラグがあっという間の速さでその兵士に近づいた。魔法器を作動させる前に切り倒す。
オーカスはまだ兵士とやりあっている。
その間に、ラグは駆けつけた敵兵士も全員切り倒してしまった。誰一人として魔法を発動させる事なく。
その後すぐに、オーカスは剣を交えていた兵士を切り倒した。流れ出た汗を拭きながらラグを見る。
「魔法を使わずに戦うのは、魔法を使うよりきついですね」
戦いが終わるのを待っていたかのように、月が雲の間から顔を出して辺りを照らした。
月の光を受けて、ラグの灰色の頭髪は白く浮き上がり、潤みを帯びたアメシストの瞳は紫色に煌いている。
ラグは、オーカスが話しかけて暫く経ってから剣についた血を払い鞘に収めた。体から血を流して倒れている敵兵士を見ながら、静かな口調で言葉を言い捨てる。
「魔法嫌いの俺には、どうでもいい話だ」
オーカスは、ラグの冷たい口調を咎めず、歩みを進めて月の光ではっきりと見える敵兵士の死体に近づいた。
「私が敵兵士一人と戦っている間に、ラグ殿は残りの敵兵士全員を倒したのですね。剣さばきといい、身のこなしといい、人間離れした早技だ。既に退役されましたが、以前シーライト軍にも俊足で魔法を使わずに戦う兵士がいました。その兵士は、我がローラン国軍の不利といわれたアルランドの戦いを勝利に導いた英雄。その兵士も、灰色の髪で紫の瞳だったと聞きます」
オーカスはラグを見るが、ラグは顔色一つ変えず何も言わない。オーカスは遠まわしにラグを追及するのをやめて、倒した兵士の剣を拾った。壁の下の地面に剣を突き刺す。
オーカスの行動に気付いてラグが様子を見に来た。
「急に何をやりだしたんだ?」
オーカスは何度も地面に剣を突き刺している。
「穴を掘っているのです」