第2話:ローラン国1
この世界のどこかに秘宝があるという。しかし、秘宝を見た者は誰もいない。なぜ秘宝が存在するのか、秘宝がなんなのかも、誰も知らない。世界存続の危機を救うものとして伝承が残っているだけである。
秘宝の話が出るのは酒の場が多い。多種多様の人々が必ず知っている共通の知識。その秘宝の話題を切り出せば、場が盛り上がり話が尽きる事がないからだ。
ある者は秘宝を究極の魔法だと言い、ある者は究極の武器だと言い、ある者は秘宝ではなく神が眠っていると言う。
ローラン国の王も、秘宝がなんなのかを知らない。国王は、その見た事もない秘宝について悩んでいた。頭を抱えている姿が悩みの大きさを物語っている。
「サザーランド国は、なぜ鍵を奪おうとするのか」
ここでの鍵とは、どこかに隠された秘宝の封印を解くために、神々が民に託した鍵の事をいう。
現在、ローラン国にある鍵は二つ。
議事室には、ローラン国王のほかに長老や執政官などが肩を並べて座っている。疲労のある表情を見ると長い時間話し合っていたようだ。
長老は疲れ切った表情で言う。
「鍵の奪い合いで国家間で争っても、秘宝の場所も分からず、秘宝がなんなのかも分からなければ、戦う意味が無いものを」
執政官は緊張した表情で手元にある資料を見ながら言う。
「1年前の戦いで、我が国の損害は、国家予算の4分の1に及びます。また戦うとなると更に4分の1以上の予算が流出する事になり、戦争で目減りした民と荒れた土地から税を回収するのは難しく、もしまた戦争となれば財政破綻を招く事になります。王様、これ以上の戦いは絶対に避けなければなりません」
「判っておる。それに奪い合いではない。サザーランド国が我が国の鍵を狙っておるのだ」
ローラン国王は、言ってから椅子に座り直し、背もたれに深くもたれてからまた言う。
「暫く考えさせてくれ」
ローラン国王は、悩みに悩んで、ついに王冠を頭から外して円卓の上に置いた。王冠の跡が残っている頭髪を、掻いてから撫ぜる。
それを見て長老が口を開く。
「王様」
「長老、分かっておるから、そう言わんでくれ」
ローラン国王は、もう小言は聞きたくないという思いを吐き出しながら長老に言う。
「ローラン国の王として、なんとかせねばならないのは分かっておるが、我が国にある鍵を求めて戦いを仕掛けてくるのは、サザーランドのほうなんだぞ」