第19話:リクナの国境1
戦前のアルランドの街にあったローラン国とサザーランド国を繋いでいた国境の道は、平坦で行き来が楽なため商業の流通経路になっていた。
戦争が終わった現在は、どの国境の道も封鎖状態だが、両国の許可証を持った一部の商人だけが、国境の行き来を許されていた。
リクナの町にも、サザーランドへと続く細い道があるのだが、国境を越えるには進入国へ重い税金を支払わなければならず、許可証がもらえない、もしくは税金が払えないといった人々の密入国があとを絶たず、その密入者を防ぐために、背より高い国境の壁を間に挟んで両国の兵士が交代で肩を並べて睨みをきかせていた。
酒場で昼食を済ませたオーカスは、昼間のうちに旅支度を済ませ、日が暮れてからは草原に潜み、国境にある壁を見ていた。
夜空には満月が浮いている。雲がゆっくりと流れて満月を隠すと、辺りは闇夜になり、国境の壁は黒味を増して闇夜に溶け込んで見える。
オーカスは暗くなった今がチャンスとばかりに草原を這って移動する。
その隣に、なぜかラグもいた。
「一緒に来てくれるなんて、ラグ殿は本当に善い人なんですね」
オーカスが嬉しそうに言うのを、ラグは鬱陶しがる。
「いらん事をしゃべってないで、さっさと進め」
「はい」
小声ではあるがラグが怒り口調で言っても、オーカスは嬉しそうに返事をして這って進む。
草原にいる虫たちは、そんな二人の会話や物音を隠すように曲を奏でている。
国境の壁に近づくにつれ、壁のレンガ模様がはっきりと見えてくる。近くで見る国境の壁は、思った以上に高く、魔法でトラップも施されていて、ヘタに壁に触れれば何が起こるか分からない。
オーカスは、剣についている魔法器を使って壁に施されているトラップがなんなのか調べようとする。
「とりあえず、どんなトラップが仕掛けてあるのか知りたいので、周囲の状況を魔法で調べてみましょう」
オーカスの行動の一部始終を見ていたラグが素早く静かに動いて魔法器に触れているオーカスの手を掴んだ。
「やめろ。魔法を使えば、敵の魔法センサーに感知されるぞ」