第157話:最終話4
どうやらオーカスは、ニックの水の幻影魔法により、ラグの不始末を見ていないようだ。
オーカスはニックの表情を見てすぐに悟る。
「もう。ニック。話のついでに、ラグに何かしたのですね」
「したというのか。されたというのか」
机の上でとぼけるニック。
オーカスはラグに向き直る。
「ラグ。そのままで構わないので私の話を聞いて下さい。実は土の鍵の継承者候補が誘拐されたのです」
「何!」
ラグは我に返った。目を覆っていた左手は落ちて、本物のオーカスの顔が目に入る。
「俺は土の鍵の継承者候補がいるって事すら知らんぞ」
ニックは机から降りて言う。
「あれ。手紙に書いたんだけど」
ラグは丸めた手紙を思い出す。
「白い薔薇の……」
「そう。その手紙」
「なんて事だ」
ラグは頭を抱えようとするが、右手がさっき何を握ったのか思い出して、右手の動きを止め、左手のみで頭を抱える。
オーカスは懇願するために、そのラグの右手を両手で包んで力強く握った。
「お願いです。土の鍵の継承者候補を探すには、土の指輪に認められたラグの協力が必要なのです」
ラグは必死に右手を引く。
「うわっ! オーカス。いかん。すぐその手を放せ!」
「いいえ。わたしの頼みを聞いて頂けるまで、この手は放しません!」
オーカスは言いながら手を放し、懐から書類を三枚出してラグに見せる。
「これは新王からの長期出張命令です。そしてこれが将軍である私からの徴兵命令です。そしてこれが少尉になって頂くための任命状です」
「ちょっと待ってくれ。急に言われても俺も支度があるし、手も洗いたいし、知事にも長期休暇届けを出さないと」
「その必要はありません。新王からの命令により既に知事の許可は下りています」
オーカスは再度ラグの手を握って引っ張りラグを立たせる。
「ぐずぐずしている暇はありません。早く私と一緒に来て下さい。外に地竜を待たせてありますから」
「行くって、俺にも心の準備ってものが」
オーカスはラグの右手をしっかりと握り、ラグを引っ張って歩く。
「せめて、手だけでも洗わせてくれ。オーカス。お前も手を洗うんだ」
ラグは強制的にオーカスに引っ張られて行く。
オーカスは、インテリアのように壁に飾ってある剣を指さして言った。
「ニック。ラグの剣を持って来て下さい」
「この剣だね。ついでに、このコートも持っていこう。うーん。ラグの匂いが染み付いて、いい感じ」
「貴様。人のコートの匂いを嗅ぐな!」
三人は騒ぎながらラグの書斎を出て行く。
ラグに真の安息の日々が訪れるのは、まだ先のようだ。
こうして、キー・スピリッツを体に宿すthe keysの、新たなる旅が始まった。さてさて、今度の旅は、どうなることやら。