第154話:最終話1
巨大飛空艇の崩壊から約1年が過ぎ、最近は若い新国王の噂でローラン国は活気立っていた。
ラグは、生前父が勤めていた知事になるべく、現知事の下で事務官として働いていた。それともう一つ、戦争により断絶したサザーランド国との国交の回復のために、新ローラン国王に任命され大使としての役目も兼任していた。
そんなラグの所に一通の手紙が届く。手紙にはサザーランド国の紋章が刻印されている。
ラグは封を切り手紙を開いた。手紙には品の良い達筆な文字が綺麗に並んでいる。
我が愛するラグへ
今日、庭の薔薇を摘んでいる時にラグにぴったりの白い薔薇を見つけました。
手折るのをためらったのですが、やはり我が傍に置きたいと思い、氷付けにして我が机の上に飾ってあります。
ラグは読んでいる途中で手紙を握り込んで手の中で丸めた。
「そのうち、俺もあいつに氷付けにされる」
紙を丸めた音を聞き、ラグの執事が駆け寄る。
「ラーグ様。なんて事を。サザーランド大使様の手紙を、そのように手荒く扱ってはなりません。これは公的文書として保管しておかなければならないのですよ」
「なら、お前の好きにしてくれ。たまの休暇くらい書斎でゆっくりしたいのに、そんな手紙を見せられたら、誰だって丸めたくなる」
ラグはくしゃくしゃに丸めた手紙を執事に渡した。
サザーランド大使というのはニックのことである。ローラン国の大使がラグというのを聞きつけて自ら大使になりたいと名乗り出たのだろう。
「あーあ。こんなにしわくちゃにして……」
執事が手紙を広げてしわを伸ばしていると、ドアのノック音が響き、侍女が静かに入って来て執事に耳打ちをした。
執事は手を止めて言う。
「昔、旅の連れだったという者が、ラーグ様に面会を求めているそうです。お通し致しますか?」
「旅の連れ?」
将軍のオーカスは、そう簡単に城から出れないはず。ということは、自称放蕩息子のニックか。手紙をよこしたのはそのためかと思ったラグは焦って舌を噛みながら言う。
「そ、その者は通すな。いいか、絶対にだ。氷付けにされる」
「はい。畏まりました」
侍女は返事をして書斎を出ようとするが、面会の者はドアの向こうにいたようで、侍女の制止を押しのけて書斎に入ってこようとする。
「ラグ。私です」
ラグは懐かしい声を聞いて椅子から立ち上がった。
「オーカスなのか?」
オーカスはドアから顔を出した。
ラグは急いで訂正する。
「すまん。私の勘違いだ。その者は通してくれても構わん」
「あ、はい。失礼しました。どうぞ、お入り下さいませ」
侍女はオーカスに一礼すると、オーカスを中へ通した。