第150話:金髪のケルティック卿4
「できなかった? 崩壊時に巨大飛空艇の中にいたということですか?」
オーカスの驚いた表情をかわいいと思いながらニックは答える。
「そうです。だから水の鍵が作り出した水球の中に入って墜落の衝撃を直接身に受けないようにして、周りに氷の壁をいくつも作って崩れ落ちてくる破片や機械の塊から身を守っていたのですが、氷の壁を作っているうちに私の魔力に限界が生じてしまって。私はその前から戦い続けていましたからね。もうダメだと思い死を覚悟した時、巨大飛空艇の破片や機械の塊が私を包むように取り巻いて、私を守ってくれたのです。ただ、崩壊時に一緒に埋まってしまったので発見されるまで時間がかかりましたが」
「俺が調査隊に加わっていれば、お前が二度と地上に出てこないように、地中深く丁寧に埋め直してやったものを」
「もうラグ、意地悪な言い方はやめて下さい」
オーカスはラグを叱ってからニックに言う。
「本当はラグもニックに会えて喜んでいるのですが、まだ素直になれないところがあって」
「俺の心を勝手にニックに向けるな!」
「素直じゃないラグも大好きです」
ニックは怒鳴るラグにウインクをする。
ラグは鳥肌を立てて嫌がる。
ニックがラグにウインクをしたのは作戦だったようで、ニックはラグを黙らせてからまたオーカスとの会話を続けた。
「ラグが魔法を使えなかった事について、ケルティック卿としてシーライト将軍にお伝えしたい事があります。ラグの感情の麻痺や幸福感の喪失などの症状については、賢者ケルティックから聞いております。ラグは過酷な戦闘体験による心的外傷後ストレス障害のようです。現在は徐々にではありますが回復に向かっているそうです。オーカス。あなたの存在がラグの心の薬になっているみたいですよ」
「私が!?」
オーカスはラグの顔を見た。
ラグは急に真面目な表情をしてオーカスからの視線をそらした。急いで取り繕ってニックに言う。
「悪いがニック、それは俺の問題だ。オーカスに話すのはやめてくれないか」
ニックは不敵な笑みを浮かべ、ギリシャ神話に出てくる神のように畏怖を込めた視線でラグを見下ろした。
「そうですね。ラグはコトック卿として、いずれローラン城を出て、故郷であるコトック地方に戻り、お亡くなりになったお父様のあとを継いで知事の職に就き、ご両親や妹君、奥様であるオフェーリア様の菩提を弔っていかなければなりませんからね」
オーカスは、ハッと気付いた表情をする。
ラグは現実を突きつけられて押し黙った。
顔色が変わってしまったオーカスにもニックは言った。
「オーカスもマジックナイトの称号を持つシーライト将軍として、シーライト家の再建をしていくんですよね。オーカスの夫となる方はどのよう方になるのでしょうか。お祝いをお送りしたいので、お相手が決まったら私に連絡を下さいね」