第149話:金髪のケルティック卿3
ケルティック卿はラグの腕に触れて言葉を続ける。
「ニックは、コトック卿の熱き思いに触れてしまったがために、あなたを愛してしまったのでしょう」
ラグの動きが止まる。ラグは体を光らせながらケルティック卿を見た。
「ケルティック卿?」
ケルティック卿はハンサムな顔立ちで、迷える子羊となったラグに、教会の牧師のような表情をして導きの言葉を告げる。
「ニック。愛してる。と言えば、それだけでニックはとても満足すると思いますよ」
ラグの体から光が消えた。ラグはケルティック卿のエメラルド色の瞳を見つめて、唇をゆっくりと動かした。
「ニック。愛……して……る」
最後の「る」を発音した時、ラグの唇はキスを求めるように開きかけた薔薇の蕾となって、ケルティック卿に向けられた。
ケルティック卿は、急に表情を変えてラグに飛びついた。
「ああ。ラグ。私もラグを愛してます」
ラグは飛び付いて来たケルティック卿の顔面を片手で受け止めた。
「と言って、俺がお前に愛を捧げると思ったか? ニック!」
「あともう少しだったのに、どうして気付くんですか?」
「水の鍵魔法を使い、変装したって、行動がニックそのものでは、ばれるのは当然だろ。その程度の変装で俺が騙せると思ったか。考えが甘いぞ」
「巨大飛空艇が崩壊した時、キスをくれてやればよかったと言っていたそうじゃないですか」
姿形はハンサムな金髪のケルティック卿。今の言葉使いも紳士のケルティック卿。だが行動そのものは変態ニック。ニックはケルティック卿の姿のまま、ラグを抱きしめようとするが、手が背中まで届かず、ラグの頬に触れるのが精一杯で、とりあえずラグの頬に両手をそえてキスをしようと唇を尖らせる。
ラグは迫ってくるニックの顔を両手で押し返した。
「俺からのキスは、お前が死んでいたらの話だ。……て言うか、貴様、俺の話を聞いていないだろ」
そんなラグとニックに、オーカスは両手を広げて飛びついた。
「ニック。生きていたのですね」
ニックはラグから手を放してオーカスに抱きついた。
「オーカス。ちょっと見ないうちに女らしくなったね。もしかして薄化粧をしているのか?」
口調がガイドのニックになっている。
「はい。少しだけ。もうみんなの前で女を隠す必要がなくなったので」
「そうか。俺は綺麗になったオーカスに会えて嬉しいよ」
ラグの目には、愛おしそうにオーカスを抱き締める金髪のケルティック卿の姿が映っている。
「オーカスに抱きつくな!」
怒りまくるラグを尻目に、ニックはオーカスの頭を撫でた。
オーカスはニックを見上げて、出会えた嬉しさを全身いっぱいに表して言う。
「どうやって墜落する巨大飛空艇から脱出したのですか?」
ニックは周囲の視線を気にして咳払いをしてから、ケルティック卿として答えた。
「脱出は、できなかったのです」