第144話:ローラン国王14
ニックは皆を先導する。
「さあ、早くサザーランドの飛空艇に戻らないと」
ラグたちはサザーランド国王と共に走り、巨大飛空艇に横付けされていたサザーランド国の国旗を掲げた飛空艇に無事に搭乗した。
オーカスはラグに言う。
「墜落する前に飛空艇に戻れてよかったですね」
「ああ」
ラグが返事をした直後に、巨大飛空艇は降下を始めた。
ラグたちは飛空艇の窓から落ちていく巨大飛空艇を見た。地面に叩きつけられ壊れていく巨大飛空艇は、飛空艇団の光線に耐えたと思えないほど脆い崩れようだった。崩れていく回りで土煙が上がる。
ラグはポツリと言った。
「神々が作ったもんでも、最後は呆気ないな」
「そうですね」
オーカスも同感だと頷くが、声が一人足りない事に気付いて周囲を見た。
ラグが聞く。
「どうした、オーカス?」
「ニックの声がしないので」
「そういえば、そうだな」
ラグもニックを探す。
ニックはすぐに見つかった。サザーランド兵士に混じって立っているが、蝋人形のように全く動かない。
オーカスが歩み寄る。
「ニック?」
よく見ればニックの姿が半透明に透き通っている。
オーカスは急いでラグを呼ぶ。
「ラグ。ニックの様子が変です」
オーカスの声でラグが駆け寄り、サザーランド国王や兵士たちがニックに注目した。
オーカスの言うとおり、ニックの体は透き通り、たまに波紋が起こり揺らいだりしている。
ラグはニックの肩を掴んだ。
「ニック。どうしたんだ?」
その瞬間、ニックの体はただの水と化し、落ちて水溜まりとなって床に広がった。
ラグは雫がかかった自分のブーツを見て息を飲む。
オーカスは水溜まりに向かって何度もニックの名を呼ぶ。
ラグはオーカスほど取り乱さず黙って水溜まりを見つめた。そして、落ち着くようにとオーカスの肩を掴んだ。
「ニックは、ワザと巨大飛空艇に残ったんだ」
「そんなはずは。だって私たちと一緒に逃げて」
言い掛けて、オーカスはニックの姿がダブって見えた時の事を思い出した。
「もしかして、あの時に……。ニックはシステムの状況を調べた時にすぐ墜落する事を察知して、私たちがサザーランドの飛空艇にたどり着くまで、墜落寸前の巨大飛空艇を維持しようと、鍵の水魔法を使って」
オーカスは泣き声になりながらも言葉を続ける。
「もう一人の自分を作り、本体はシステム維持のために残り幻術で身を隠して……。ニックは巨大飛空艇と一緒に落ちて……」
ラグは、泣いて言葉が続かなくなったオーカスの肩を抱く。
「もういい。もういいから。な、オーカス」
「ラグ……」
「こんな事なら、ニックにキスの一つでもくれてやればよかった」
ラグの言葉を聞いてオーカスはラグの胸にすがりついて声をあげて泣き出した。
サザーランド国王は静かに言った。
「きっとケルティック卿の体内にあるナノマシーンのプログラムが起動し、プログラマーの血を受け継ぐ余を守れと、賢者ケルティックがニックに伝えたのじゃろう」
サザーランド国王はオーカスの泣き声を聞きながら悲しみの表情を浮かべた。
「神々も惨いプログラムを作りおる」
巨大飛空艇は、サザーランドとローランの両国の兵士が見守る中、完全に崩壊し粉々に崩れ去った。




