第143話:ローラン国王13
ラグは立ち上がって怒りの眼でローラン国王を見送る。
サザーランド国王は静かな口調でラグに言った。
「サザーランド国の王家の伝承は、こう記されておる。このノアという巨大飛空艇は、地球で暮らしていた神々を乗せ、暗き空間を移動し、この地に降りた。神々はテラフォーミングという古の魔法を用いて、水を生み風を作り植物を芽吹かせ、我々をも創造した。神々は我らと契約をしたあと、この地に降り立ち、暮らしたのじゃ。すなわち、我々のいう神々とは、この地で暮らす民の事なのじゃ。よく覚えておくがいい。我らの力の均衡が崩れ、この大地で暮らす民に害が及んだ時の事を考え、我らの体内に制御プログラムという呪文を施した。今回のローラン国王のように、誰かの力が暴走し民を虐げるような事があった場合は、王及び賢者の末裔の誰かの制御プログラムが起動し、暴走した者を食い止めるようになっておる。その権限は絶対で、相手のナノマシーンのプログラムの書き替えが可能になる」
ニックは、サザーランド国王が言わんとしている事に気付く。
「それは、もしや!」
サザーランド国王の視線は、今もラグに向けられていた。
「そうじゃ。今回は、あの者がその役割を担ったのじゃ。愛と誠実の象徴。火の鍵の継承者。賢者コトックの末裔」
ラグはサザーランド国王を見た。だが瞳はまだ怒りに満ちていて、その怒りは親の仇を討たせなかったサザーランド国王にも向けられている。
「大義であった。賢者コトックの末裔よ。さぞかし苦しかったであろう」
「俺は未だに、ナノマシーンだの、プログラムだの、訳が分からないんだが」
愚痴るラグに、サザーランド国王は言う。
「余が知っている事ならなんでも教えて進ぜよう」
サザーランド国王は皆を誘導する。
「慣れない場で長話をするのは疲れる。早々に城に戻るぞ」
「はっ」
サザーランド兵士が来た道を戻ろうとした時、また巨大飛空艇が揺れた。
後方にいた兵士が叫ぶ。
「我が軍より入電。巨大飛空艇の船体が傾き、高度が落ちているとの事です」
サザーランド国王は呟くように言った。
「侵入するために、いくつも穴を開けて来たが、それがいけなかったのか」
ラグとオーカスとニックは顎を落とした。
ラグは「どれだけ穴を開けて来たんだ。この王様は」と思い、オーカスは「推進力になる部分を刳り貫いてしまったのかも」と思い、ニックは「我が国王は秘法を壊し○△※◇」と言葉にならないほど驚いている。
ニックの声が裏返る。
「サザーランド国王……」
ラグは小声で言った。
「サザーランド国王は、天然か?」
オーカスは口の前に指を立てる。
「ラグ。静かに。無礼ですよ」
ニックは急いでローラン国王のゆりかごがあった場所に行きしゃがんで床に手をついた。腕の水のブレスレットが淡く光り、ニックも呼応して淡く光る。水魔法を使い船体の状況を調べているようだ。
「王のおっしゃるとおり、システムの殆どが機能を失い浮いているのがやっとの状態です。こりゃあ直に墜落しますね」
ニックは立ち上がる。
オーカスには一瞬ニックの姿がダブって二人いるように見える。ダブったどちらかが消えてしまいそうに思えてニックの腕を握った。
「ニック大丈夫ですか?」
「ん? 何が? なんでもないけど、急にどうしたの?」
ニックはきょとんとしている。
「何もなければいいのです」
オーカスはニックの腕から手を放した。