第130話:ゆりかご3
ラグはニックから視線を外す。
「お前の詮索はやめにする。きっとお前のそっくりさんは、別のガラスケースか別の部屋で眠っているんだろう」
「なんの根拠があって、そういう事を言うのかなぁ」
ラグは、ぼやくニックに背を向けて歩いて行く。
オーカスも歩き出したが、画面の新しい情報を見つけてラグを呼び止めた。
「ちょっと待って下さい。ここに別の情報があります」
オーカスは読み間違えないように古代文字を指でなぞりながら読んだ。
「テラフォーミングを行った結果、地球とほぼ同じ環境にする事に成功。大気や植物の違いが、人体にどのくらい影響を及ぼすか調べるために、有機ロボットをユーフォリアに送ることを決定する」
ラグはオーカスの横に立ち、読めもしない古代文字がある画面に手をつく。
「どういう事だ。意味が分からん」
「テラフォーミングは、巨大飛空艇の名前でしょうか」
ニックは賢者ケルティックの言葉をラグとオーカスに伝えた。
「巨大飛空艇の名前はノア。神々はここに住むために、以前住んでいた地球という世界に似せてユーフォリアを創造したんだと。俺たちはこの地に移り住んだ神々を守るために、特別に作られた人間だそうだ。体内のナノマシーンにより魔法器無しで魔法が使えるのはそのためらしい」
そして賢者ケルティックは、ニックの体内にあるナノマシーンの能力を使って、ラグとオーカスにも伝えた。
『我はケルティック。聞こえるか? コトックの末裔とシーライトの末裔よ。シーライトのナノマシーンのプログラマーであるローランは、この上の部屋にいる。彼はノアのプログラムにアクセスし、ケルティックのナノマシーンのプログラマーであるサザーランドを殺そうとしている。一刻も早く、ローランを止めるのだ』
ラグは眉間にシワを寄せた。
「訳の分からん言葉ばかりだ。とにかくローラン国王は上にいるんだな」
オーカスは魔法器に手を当てる。
「そのようです」
ニックは賢者ケルティックに言った。
「属性っていうか、体質が違うと声は聞こえないんじゃなかったのか?」
ニックの頭の中に賢者ケルティックの声がまた響く。
『リーのナノマシーンもそうだが、ラグに接触しているうちに、なんらかの影響を受けてほかのナノマシーンとの互換性が実現したようだ』
「マジかよ!」
驚いて棒立ちになるニック。
ラグは歩こうとしないニックを呼んだ。
「ニック早く来い。お前のウォーターカッターがないと天井に穴が開けれんだろ」
ニックはラグの横に立ち、ラグをじっと見つめる。
ラグはトラウマが働いて、ニックの愛情表現に備えて身構えた。
「なんだ? どうした?」
「やっぱりあんたは最高だ! 俺が惚れただけの事はある!」
オーカスは、ニックのラグに対する何度目かの告白を聞いて苦笑いを浮かべる。
ラグは迎撃体勢に入り、こめかみに青筋を浮き上がらせた。
「この非常時に何を言っているんだ! 早く天井に穴を開けろ!」
ニックはニヒルな笑いを浮かべた。手を広げて水の輪をいくつも作りだす。
「了解。ラグのための、愛のウォーターカッター」
「愛をつけるな!」
ニックは軽業師のように水の輪を操りながら、憂いが篭もった眼差しをラグに向けて言った。
「はあ、つれないね。嘘でもいいから愛してるって言って欲しいよ」
「誰が言うか!」
天井に穴が開いた。、
早速ニックは氷の翼を作って一緒に飛ぼうとラグを招くが、当然ラグは断りオーカスと一緒に浮上する。
「一人って淋しい。ラグと一緒に飛べたら、俺は天にも昇る気分になれるのに」
「ちょっとでも俺に触れてみろ。望みどおり、お前を昇天させてやる」
怒ってニックに言うラグは、オーカスがすぐ穴に突入したこともあり、穴の形がハート型になっている事に、全く気付いてはいなかった。