第13話:アルランドの英雄1
貿易によって栄えた街アルランドは、堅剛豪華な建物が大半を占めている。
それが兵士の視界を遮って行く手を阻み、前から後ろから、そして上からと、建物の陰から現れる敵兵士に振り回され、不利な状況下で戦うローラン兵士に更なる混乱と悲劇を招いていた。
現在、三十四部隊は隊長が戦死したため、今は副隊長のラーグが隊長の代わりを務めている。
今も続く不利な戦いにより、三十四部隊の兵士の数も半分以下に減ってしまっていた。
またもやその三十四部隊に敵兵士の集団が襲い掛かった。
後方の魔法使いは、前衛の支援のために物陰で大きな火の玉を作り始める。
前衛の兵士は、味方の魔法使いの詠唱時間を稼ぐために、敵兵士と剣を交えて敵兵士の足止めをする。魔法器から発動した火の玉が近づく頃合いを見計らって、前衛は一瞬にしてその場から逃げ去った。前衛がいなくなってすぐに火の玉は敵兵士の集団に落ちて、敵兵士全員が焼け死んだ。
阿吽の呼吸で戦いアルランドの戦場を移動していく三十四部隊の戦いは順調に見えたが、周りで戦う味方部隊は次々と倒されていき、支援部隊が到着しない現状況では不利な環境で戦う事に変わりはなく、そんなラーグたちにも絶望という現実が巡ってくる。
ラーグがまた敵兵士の集団に囲まれた時、ジェイローは魔法を投げながら言った。
「副隊長。もうダメです。こうなったら皆の魔力を集めて最後の手段に」
連続で魔法を投げ続けているジェイローは集中力が衰え、魔法器のついた弓を握る腕も重くなってきている。
ラーグも浴び続けた返り血のせいで剣を握る手が滑り気を帯び、戦いのために踏み込んだりして移動し続けている足の裏は肉刺がつぶれていて、足を動かすたびに酷い痛みを感じてしまう。
だが、戦場で戦いをやめる事は死を意味し、隊長の代役を務めるラーグが戦いを諦める事は、部隊の全滅を意味している。
ラーグは、敵兵士と戦いながら言う。
「ダメだ。そんな事をしたら、この辺り一帯に重力場ができ、敵味方共々重力に押し潰されて死んでしまう。まだ諦めるな。支援部隊が到着するまで頑張るんだ!」
敵兵士に囲まれ精神的にも追い詰められたジェイローは、呼ぶ時に守らなくてはならない階級を忘れて、親友としてラーグを呼んでしまう。
「ラーグ。もう我々は生き残れない。周りをよく見ろ。最後の手段を使わなければ、我々は無駄死に……」
ジェイローの言葉が途中で止まる。それはある事を告げるサイン。