第126話:巨大飛空艇7
その時、ラグの体の中で賢者リーの声がした。
『私の名を呼んだという事は、keysになる覚悟ができたという事でしょうか? 賢者コトックの末裔、ラーグよ』
ラグは顔を上げる。
「賢者リーなのか!」
ニックはラグを見る。
「どうした。ラグ?」
「賢者リーの声が聞こえる」
「賢者コトックじゃなくて、賢者リーの声が聞こえる!? 火の体質が土の声を聞くなんてありえん」
ニックは水魔法を使いラグの腕に触れてラグの体内を調べた。
ラグの体の中で賢者リーの声は今も響いている。
それはラグの腕を触るニックにも伝わった。
「頼む。賢者リー。オーカスを助けてくれ」
『keysになる返事は頂けないようですね。さて、あなた自身の治療がすんでいないうちに、ほかの者を治療するのは賛成できませんが、あなたがこのリーに初めて向けた誠実なる願い。私は、ユーフォリアの土の意思を持って、叶える事に致しましょう』
オーカスの体が淡く光りだす。オーカスの体に刺さっている剣は原子レベルで変化を起こしてオーカスの血肉に変わり、損傷した細胞を修復していく。
ニックはラグの体内を調べつつ、体が修復されていくオーカスを見ながら言う。
「どうやらラグの体内にあるナノマシーンのメモリーに、ドクター・リーのプログラムがコピーされているようだ。それがドクター・コトックのプログラムになんらかの作用をもたらして、あんたは火の体質でありながら土の、それも上級魔法が使えるみたいだ」
ラグは自分の両手を見て言う。
「俺は、何もしていないんだが」
「無意識に魔法を使っているのか」
ニックが、こりゃ先が思いやられるなと思っていると、ニックに賢者ケルティックの声が届いた。
『ラーグは戦闘ストレス反応を伴った心的外傷後ストレス障害者だ。現実逃避・アルコール依存・食事障害・不眠・集中力低下により、思うように魔法が使えん。賢者リーの癒しと、私の体調変化の魔法を用いて治療しているが回復は芳しくない。現在は、雷の鍵の継承者の存在のみがラーグになんらかの影響を及ぼし、アルコール依存・不眠・食事障害を軽減させ、火と土魔法までも発動させている』
ニックはラグを見た。
「オーカスが将軍だろうと誰であろうと、あんたはオーカスの保護者なんだな」
心配そうな表情でオーカスを見ているラグ。全てを失ったはずの灰色の髪をした男は、気付かないうちに大切なものを見つけていたようだ。
賢者リーによる土魔法の治療は順調に進み、約10分ほどでオーカスの傷の治療は終了した。
オーカスは目を開ける。最初に視野に入ったのは、髪の赤いニックだった。
「ニック……?」
「よう。目が覚めたか」
次にオーカスはラグを見る。
「ラグ」