第125話:巨大飛空艇6
ニックはオーカスの胸の傷口を見る。
「水の魔法でオーカスの応急処置をする。ラグ。オーカスの鎧を外すのを手伝ってくれ。剣は出血が酷くなるから、まだ抜くなよ」
「分かった」
ラグとニックは慣れない手つきで、オーカスから鎧を外し、その下のタートルネックの服のチャックを下げた。
赤い髪のニックが、エメラルド色の瞳に影を落として真面目な表情で言う。
「剣は防弾チョッキの下にある鎖帷子まで貫いてオーカスの胸に刺さっている。とりあえず防弾チョッキと鎖帷子も脱がすぞ」
「ああ」
ラグとニックはオーカスの防弾チョッキを脱がした。ニックの手が止まる。
「もしかして」
「どうした、ニック?」
ラグはオーカスの状態を心配して聞く。
ニックはオーカスを凝視していたが、再び手を動かす。
「いや。とにかく応急処置が優先だ。鎖帷子を脱がさないと」
二人がオーカスの鎖帷子を脱がしたところで、今度はラグの手が止まった。ラグのアメシストの瞳にオーカスの姿が映っている。
ニックの口から呟きとなった言葉が漏れる。
「やっぱり、この子は……」
オーカスの鎖帷子の下から現れた白い肌。その胸には鍛えられた筋肉とは違う膨らみがある。
ラグは、剣が刺さった痛々しい胸を見て言った。
「女だったのか……。オーカス」
床に両手をついて唖然とするラグの隣で、ニックは冷静に手を動かして、水魔法を使いオーカスの診断を行う。
「剣は胸骨を切断し、肺を貫通、心臓への血管と食道の器官も切断している。普通なら即死しているところだ」
「よくそんな状態で……。なぜ大丈夫だと言ったんだ? なぜ俺たちに、助けを求めない」
ラグは、オーカスの意識が無いと分かっていても言わずにはいられない。
「治癒の土魔法を使っていればなんとかなると思い、耐えていたんだろう。背中へ抜けている剣が脊髄を傷つけていないのが不幸中の幸いか。止血は俺の水魔法でなんとかできるが、細胞組織の再生と修復は土の上級魔法でないとどうすることもできん」
ニックは、オーカスの胸を見つめて動かないラグに言う。
「おい。聞いているのか?」
「聞いてる。聞いてはいるが、ここで土魔法を使えるのは、意識の無いオーカスだけなんだ」
ラグはオーカスの額にかかっている毛を整えながら続けて言う。
「もう大切な者を失いたくないのに、なぜ俺の傍にいる奴はこうも傷付くんだ。せめて亡霊でもいい、賢者リーがいてくれたら、オーカスを治してやることができるんだが」
ラグは涙声で唸り、床を拳で叩いた。