第117話:再会2
ラグが軍人だった頃、遠くから眺めていたシーライト将軍がそこにいた。高貴な姿のシーライト将軍を見ても、ラグは跪くことなくいつもの名を呼ぶ。
「オーカス。俺たちの鍵を取り返しに行こう」
オーカスは静かな眼差しでラグを見る。そこにあどけない十七歳のオーカスの表情は無い。
「私は、秘宝探索の任務を終え、現在は将軍職に戻り、不在の間に溜まった仕事を片付けねばなりません。それに私は、将軍の立場でありながら乱闘騒ぎを起こした。ローラン国王より謹慎を受けた私はしばらく自由に動けませんので、謹慎期間中をうまく利用し仕事を片付けようと思っています」
ラグは、オーカスの肩にあるシーライト将軍としての銀色の鎧を掴む。その冷たさがオーカスの今の心境を表しているようで虚しさを感じるが、ラグは強い意識で心に湧く虚しさを振り切った。自分の中にある闇を払うために。
「オーカス。何を言ってるんだ。ローラン国王が秘宝を所持しようとしているんだぞ。神々の怒りに触れる前に、ローラン国王を秘宝から引き離さないと」
ラグに肩を掴まれても、オーカスは顔色一つ変えず冷静に答える。
「秘宝が巨大飛空艇だと判った今、ローラン国王のほかに王立研究所の研究員も巨大飛空艇内に入り、調査を行っています。何も起こらないところをみると、神々はお怒りではない様子。もうローラン国王をお止めする必要はないかと思いますが」
オーカスがラグから目を反らして体の向きを変えた時、オーカスの肩を掴んでいたラグの手が放れた。
「オーカス……」
オーカスは静かに歩いて将軍専用の机に手を置いて椅子に腰掛ける。
「ラグ。いや。ラーグ殿。私はあなたと旅をした日々を忘れた訳ではありません。私からの感謝の気持ちとして、私と共に秘宝探索を担い、ローラン国に秘宝をもたらしたアルランドの英雄ラーグ殿に褒美を取らせるよう、ローラン国王に進言するつもりです」
ラグの目の前で、どこまでも冷静に話すオーカスを、ラグはとても遠い存在に感じながら言う。
「俺が欲しいのは、褒美じゃない」
「なら、何が欲しいのですか? 私の権限が及ぶ限り、なんでも用意させますが。そういえば、酒が好きでしたね。今後十年間、ローラン国内で飲む酒はタダにしましょうか?」
「違う。俺がここに来たのは、お前が必要だからだ」
オーカスは笑おうとするが、ラグの真剣な眼差しを受けてオーカスの表情がそのまま固まる。
ラグのアメシスト色の瞳はオーカスを捕らえて放さない。
オーカスのアクアマリン色の瞳もラグを求めていたが、オーカスは視線を外して机の上にあった書類の文字を見た。文字を読むが、ラグの声ばかりが頭に響いて書類の内容が頭に入ってこない。
ラグは机の書類を触っているオーカスに言った。
「俺にはキー・スピリッツの声が聞こえん。賢者シーライトはオーカスになんと言っているんだ? 鍵を取り戻せと言っているんじゃないのか?」