第116話:再会1
ラグは、壁を見ながら歩く。何かを探しているようだ。
「ああ。判る。ここは軍人だった俺の古巣だからな」
ラグは歩いているうちに壁に書かれた数字を見つけた。
「あった。このエリア番号で今どこにいるのかが判る。オーカスの所まで最短距離で移動できるぞ。ニック」
ラグは戻って、独房の前にいるニックの腰に手を回した。
ニックは嬉しそうに、されど恥じらいながら言う。
「その、軍の飛空艇の中でラブシーンって、初めての体験っていうか。とても刺激的だと思うが、俺としては鍵を取り返してからゆっくりと時間をかけて、濃厚な快楽を味わいたいんだけど」
ラグは奥歯で苦虫を潰したような表情になった。
「勘違いをするな。今から俺の瞬間移動でオーカスの所へ行くんだ。かなり揺れるからな。その減らず口で舌を噛み千切らんように黙ってろ」
怒鳴り口調で言ったあと、ラグはニックを抱えて床を蹴った。瞬間移動で飛空艇内を移動していく。
その移動スピードの早さに二人の姿は霞み、ラグが方向転換をするたびに、ニックが男特有の喉太い悲鳴を上げる。
艇内を見回るローラン兵士も気配を感じたり、ニックの悲鳴を聞いたりして辺りを見回すが、その頃には既に二人は移動したあとで、見ても何もみつからないため、ローラン兵士は仲間のじゃれ事と思い込んで通り過ぎて行く。
そのお陰でラグはローラン兵士に見つからずオーカスのいる上官専用の部屋に到着した。
ラグはニックを手放しドアを開けて名を呼ぶ。
「オーカス!」
だが、部屋にオーカスがいない。
ニックは連続の瞬間移動に疲れて、近くにあったソファーに腰掛け、両腕を背もたれに投げ出した。
「別の部屋じゃないの? それとも別の飛空艇にいるとか?」
「ローランの場合、階級や部隊ごとに搭乗する飛空艇は決められている。作戦もなく将軍が別の飛空艇に搭乗するなど、ありえん」
ラグはオーカスを探して部屋を見渡す。
飛空艇内の部屋だけあって決して広い部屋とはいえないが、上官用としてそれなりの高価な机や棚などがある。
ラグは棚の陰に隠れるようにしてある扉を発見した。ラグが扉に近づいた時、扉が静かに開いた。
扉からオーカスが顔を出す。ラグを目に留め、アクアマリンの瞳で数秒ラグと見つめ合ってから、ソファーに座っているニックにも視線を向ける。
「どうしてここに? ラグは落ち着くまで独房に入れておくと、親衛隊が言っていましたが」
扉から出てきたオーカスは、軽装ではあるがシーライト家の紋章があるマントを羽織り、板金で獅子の絵柄が浮き出たデザインの銀色の鎧に身を包んでいた。腰にはいつも挿していた細身の剣がある。獅子色の髪はもう後ろで留めてなく、緩やかなウェーブヘアーとなって肩を隠している。