第115話:独房2
ニックは土足でラグの心に踏み込んで来る。そんな彼は、敵国サザーランドの王宮の要人。きっとここの情報は敵国に筒抜けだろう。もしかしたら、これはニックの罠で、また謎の黒い集団に襲われるかもしれない。だが、今の状況ではどうしてもニックの助けを借りなければ独房から出る事はできない。
ラグは素直に答えた。
「両方だ」
ニックは苦笑する。
「継承者として、鍵の奪還を優先しないのはよくないな。でも、愛するラグの頼みなら仕方ないか」
直後、ニックの体が淡く光る。
ラグは、ニックを見ながら不思議がった。
「鍵も無く、魔法器にも触れず、魔法が使えるのか。お前は?」
「あれ、鍵の継承者なのに知らなかったの? 鍵は飽く迄も鍵。俺たち鍵の継承者は、鍵の守り人として、魔法器が無くても強力な魔法が使えるんだぜ。まあ、鍵があれば魔力が増幅されて強力な魔法になるのも確かだけどね」
ニックは両手に水の輪を現す。
「ラグ。後ろに下がって」
ニックは、ラグが離れるのを確認すると鉄格子に水の輪を投げた。
「ウォーター・カッター」
ニックは軽業師のように両手で水の輪を操る。音速で回転する二つの水の輪は鉄格子を切断した。
ラグの足元に、切れた鉄格子が落ちる。
水の輪はニックの手に戻ると蒸発して湯気となって消えた。
ラグは独房から出た。
「有り難う。ニック。これでオーカスの下へ行ける」
ニックはラグに剣を渡す。
「言葉より、愛が欲しいな」
ラグは腰のベルトに剣を差し込みながら言う。
「悪いが、男に捧げる愛は無い」
ラグは歩き出すが、ニックがついてこないので足を止めて振り返った。
ニックは、まだラグが入っていた独房の前にいる。
「オーカスを助けたい気持ちは分かるが、ここは一先ず逃げよう。オーカスも鍵の継承者だ。ここから逃げようと思えば一人で逃げられるはず。それにオーカスがどこにいるのか知ってるのか?」