第114話:独房1
ラグは目を開けた。白い天井が見える。目だけを動かすと、天井近くに小さな窓があるが、鉄格子がついている。ラグは起き上がった。壁は三枚。四枚目の場所には大きな鉄格子が壁の代わりについている。
「懲罰を受ける兵士専用の独房に入れられるとは、俺はとんだ英雄だな」
意識が朦朧とするため、床を這って移動し、体を起こして壁に背をつけてもたれた。
「体がだるい。俺は眠りの魔法を受けたのか」
ラグは瞳を閉じる。今度は眠る事はなかったが、ラグの頭の中にシーライト将軍とオーカスの顔が交互に浮かんでくる。
「今思えば、あいつの茶髪と、獅子の毛と言われるシーライト将軍の髪の色は同じなんだよな。軍にいた時にシーライト将軍の顔をもっとよく見ておけばよかった。そうしたら、あいつを失わずにすんだのかもしれないのに」
瞳から流れ出た涙に気付かずにラグは瞳を閉じた。
暫くして足音と共に兵士がやってきてラグのいる牢の中に食事を置いた。その兵士はラグの顔をじっと見ていたが、ラグが瞳を開けて兵士を見たために、兵士は逃げるようにして立ち去った。
きっと独房に入れられた英雄が珍しくて見ていたのだろうとラグは思った。そう思うと、今度は独房にいる自分が滑稽になってきて笑えてくる。
「アルランドの英雄が独房入りとは。……ハハ……ハッ……」
最初は小さく笑っていたが、今まで歩んできた自分の人生が、山有り谷有り落とし穴有りだったと回想すればするほど笑えてきて、大切なものを多く失ってきたと涙も出てきて、ラグは仰向けに寝転がり顔の上に腕を置いて笑い出した。笑っている途中で鼻水をすすったりもする。
その笑いの最中にニックの声がした。
「アルランドの英雄。ついに気が触れる。このネタをローラン国に売ったら、いくらになるだろう?」
ラグはゆっくりと身を起こした。見ればニックはローラン兵士の服を着て鉄格子に手を掛けて立っている。兜を被っていない赤い髪のままで。
「ニック。どうやってここに?」
「幻術が得意な水の鍵の継承者の俺に、そんな質問をしちゃダメだって」
ニックはエメラルド色の瞳でにこやかに言う。
ラグは床に手をついてゆっくりと立ち上がった。受けた眠り魔法のせいで気だるさはあるが歩けない事もない。体の調子を確かめながら足を動かして移動し、ニックが掴んでいる鉄格子を掴んだ。
「ニック。ここから俺を出してくれ。どうしても取り返したいものがあるんだ」
「取り返したいものって鍵? それともオーカス?」
「それは……」