第112話:名も無き土地10
「ラグ。先に王をお止めして下さい。話はそのあとでゆっくりと」
「あとにしたら、お前は将軍になって、俺の手の届かない所へ行ってしまう」
ラグは瞬間移動をして親衛隊の人集りを抜けた。もうラグの理性はなくなっていた。オーカスを求めてオーカスの前に立った。ラグはやっと気付いた。最初から素直にオーカスの傍にいればよかったのだ。と。
オーカスはラグに言う。
「私は賢者シーライトの遺志を受け継ぐ、雷の鍵の継承者なのです。ラグは賢者コトックの遺志を受け継ぐ、火の鍵の継承者。今は継承者としての使命を果たす事を優先して下さい。諸々の話は後ほど」
ラグとオーカスは背中合わせになり親衛隊と戦う。
そこにニックも加わって両手にある短剣の魔法器を発動させて戦う。
「あんたら。ローラン国王を追いかけないで、何やってんの?」
ニックの声は、今のラグには届かない。
ラグは、戦っている最中のオーカスの腕を掴んで引き寄せた。
「それだけなのか?」
オーカスは腕を引っ張られてラグを見る。
「それだけって、他に何が?」
ラグのアメシスト色の瞳と、オーカスのアクアマリン色の瞳が絡み合った。
この瞬間、ラグの頭の中にオーカスと旅をした日々が浮かぶ。
「だから、俺にとってお前は」
ラグが言った時、ラグとオーカスの動きが止まった。互いを見つめ続ける。
親衛隊は今がチャンスとばかりに近づいてラグとオーカスを取り押さえた。
ニックは捕まったらどんな扱いを受けるか分からないと思い、幻術魔法を使い姿を消して逃げ出す。
親衛隊はオーカスとラグを引き離した。言い争う鍵の継承者を別々の小型飛空艇に乗せるため、ラグとオーカスの距離はどんどん離れて行く。
オーカスは黙って親衛隊に従うが、ラグは親衛隊の誘導に逆らいながらオーカスに向って叫んだ。
「オーカス。俺にとってお前は――」
背を見せて歩いていたオーカスが振り返る。
「ラグ!」
「英雄殿。失礼する!」
ラグが余りにも暴れるため、親衛隊はラグを大人しくさせようとして魔法を使ってラグを気絶させた。
地面に倒れこむラグは、意識がなくなる寸前に、目の前に広がる闇を見た。
そしてまた、ラグは意識の中に蠢く過去と相見えるのである。