第108話:名も無き土地6
その後ろで親衛隊が小走りをする足音が聞こえる。
直後にニックが声を上げた。
「何をするんだ。放せ!」
ラグが後ろを見ると、ニックが取り押さえられている。ラグは王に進言した。
「恐れながら、あの者は襲われた我々を助けてくれた、いわば命の恩人。丁重に扱って頂きたく」
ローラン国王は満足な表情を浮かべて言う。
「久しいのう。ラーグ。アルランドの英雄としてそちに褒美を取らせたのが、昨日の事のように思える」
「退役をし、地方に下った私のような者まで覚えていて下さり、恐悦至極に存じます」
ラグは戦争の惨劇に怯えていた過去を思い出した。王の御前のため片膝をつけて頭を下げたままだったが、ラグの呼吸速度は早くなり、小走りでもしたかのように口から息を吐き出している。
ローラン国王はニックを見た。
「あの者は、サザーランド国のケルティック家の者だと、シーライト将軍より報告を受けておる。丁重に扱うが、もしもの事を考え、常に監視をつけることにした」
ニックは親衛隊に掴まれた腕を振る。
「だったら放せ」
ローラン国王は親衛隊にニックから手を放すように指示を出す。
親衛隊はニックから手を放した。
ニックは掴まれた手をさすって、親衛隊の足元にまた唾を吐く。
ローラン国王はニックに冷たい視線を送っていたが、またオーカスを見下ろした。
「シーライト将軍。鍵が4つ集まり、秘宝がこの地の空にあるという事だが?」
ローラン国王は秘宝を探して空と大地を見渡すが、1年前の戦争で打ち落とされた飛空艇の残骸しか見えない。
オーカスはローラン国王の顔色を伺いながら丁重な趣で答えた。
「水の鍵の継承者の話によると、この地の上空に秘宝があると、賢者ケルティックが伝えたそうです」
「まあ、よい。とりあえず、鍵を集め王家に伝わる儀式をここで行おう。それで上空に本当に秘宝があるのかが判る。そちたちも立つがよい」
王の言葉のあと、親衛隊が立ち上がったオーカスの下へ行く。
オーカスはタートルネックの中に手を入れて、オパールのように乳白色で虹色の艶があるペンダントを取り出した。それを黙って親衛隊に差し出す。
次に親衛隊はラグの下に行く。だが、ラグは立ったまま動かない。