第102話:聞こえない導き
ラグは不快な表情をし、オーカスは苦笑いを浮かべる。
ニックは脱力しながら言葉を続けた。
「賢者ケルティックが、キー・スピリッツの声が聞こえないラグに伝えてくれ。だと。コトック、リー、ケルティック、そしてシーライトの四つの地が交わる空の彼方に秘宝は存在する。だとさ」
キー・スピリッツの声を聞き、導きに従う。それは生前キリエラが行っていた事。ラグはキー・スピリッツと会話をしていた母の姿を思い浮かべ、何もできない自分に対して表情を歪ませた。
その横でオーカスは考える。
「賢者ケルティックは、私たちに「四つの地が交わる空の彼方へ行け」と言ってるのでしょうか?」
「だろ」
ラグは最小限の返事をして旅立つ準備を始めた。機嫌が悪くなると口数が減るラグの無口病が再発したようだ。
ニックはまだ朝食を目の前にして座っている。
「やっぱり食べたくない。見た事のない木の実を口に入れるなんてイヤだ」
オーカスは朝食を片付けながら言う。
「通りがかった町で食料を調達する予定がありますので、その時にニックの好きな食べ物を買いましょう」
ニックは、オーカスの手を握った。
「オーカス。感謝するよ。君が女性なら俺の三番目の奥さんにしたいくらいだ」
「三番目の奥さん!?」
そういえばケルティック家は代々一夫多妻の家族構成だったとオーカスは資料にあった情報を思い出す。ニックは妻帯者なのだろうか?
無言で地竜に荷物を載せていたラグは、手を握り合っている二人に気付いた。ラグの心から劣等感が消え去り、代わりに煮えたぎる熱いものが込み上げてくる。
「いつ俺たちの寝首を掻き切るか分からん奴のために食料を買うな。貴様は飢え死にしろ!」
ラグはオーカスに言ったあと、ニックに荒い言葉をぶつけた。
賢者ケルティックが言う四つの地が交わる場所は、草木が育たない荒野が広がっている。土地は痩せていて作物が実らないため、当然町も村も無く、人も住んではいない。
ラグたち三人は、キー・スピリッツの導きに従って何日もかけて地竜で移動し、その荒野にたどり着いた。戦争による戦いはここでも行われ、荒れた地にはシーライト将軍が魔法で落としたという飛空艇の破片があっちこっちに散らばり、ラグの背丈ほどある金属板が地面に刺さっていたりする。