第100話:林の中で1
ラグは気がついた。いつもの光を目蓋に感じる。最近この光を感じると、全身の緊張がとれて安堵感に包まれるようになった。そう思いながらラグは目を開けて起き上がった。横を向けば、いつもの如くきちんと身形を整えたオーカスがいて外の景色を眺めている。きっと魔法通信を使ってローラン国に報告をしていたのだろう。
オーカスはラグの目覚めに気がついて、振り返った。
「また、うなされていたようですが?」
ラグが起きた時にいつも聞く言葉なのだが、これも最近は心地良いと、ラグは思いながら口を開く。
「おはよう」
「おはようございます」
オーカスは笑顔でラグに朝の挨拶をする。
だが、ラグが幸せを感じた時間はここで終わる。なぜなら今はもう一人いるからだ。
「おはよ。ラグ♪」
ラグは聞きたくない声の響きを背中から受けて寝床から飛び出した。
「まだ、いたのか!」
オーカスと異なる低音ボイスは眠たそうにゆっくりと言う。
「酷いな。その言い方」
この声の持ち主は、ニック。今はラグの隣の寝床にいる。水の鍵を持つ彼は、昨夜襲われたラグたちを助けて一緒にサザーランド国の王都を逃げ出し、途中にあった林の中で野宿をして、ラグたちと共に一夜を明かしたのだ。
ラグは自分の支度を忘れて、剣を持ってニックの動きを警戒して見ている。
「ケルティック家は代々サザーランド国王に仕えているんだよな? 敵国の要人である貴様を信じられるか!」
「愛するラグを命懸けで助けたのに」
ニックは悲しそうな表情で剣を構えているラグを見つめてから、ラグを刺激しないようにゆっくりと動いて起き上がった。水の魔法を使い赤い髪の寝癖を直すと、掛け布団をめくって悩ましげなポーズをいくつかつけて自慢のブーメランパンツをラグに披露した。そう。ニックはパンツ1枚しか身に着けていなかった。服はサイドテーブルに置いてある。
ラグは面食らい、ニックが醸し出しているアダルト男性の色気を受けて鳥肌を立てている。
ニックはマイペースにゆっくりと腕を動かし背伸びをして、褐色の体は更に様々なポーズをとって足腰のスジを伸ばしていく。ヨガのようなポーズをするのは、しなやかに動いて戦うアサシンの準備運動だったりする。
ラグは見るんじゃなかったと後悔をして自分の支度をすることにした。
オーカスは、そんな二人を見てクスリと笑った。
「朝食の準備をしますね」
ラグは黙って支度を始めている。ニックのブーメランパンツと男の色気を真に受けてショック状態で言葉が出ないようだ。
だが、ニックは違った。以前から二人と旅をしていたかのように、とても慣れた様子で返事をした。
「うん。オーカス。宜しく♪」