第9話 旅立ち
翌朝私たちはこの城から出発するために門の前で集合していた。すると、門の外に数台の馬車がやってきた。銀色の扉に赤いドア、そしてその馬車を黒い馬が引いていた。
馬車が止まるとすぐに手綱を握っていていた人が降りてきて、北条様に真っ黒で北条様の背丈よりも高い杖を渡した。その人も北条様と似た黒いお面をしていたが、違ったのはその人のお面には三本の白い線が入っていたことだ。
「北条様この馬車ステキですね。」
と私が言うと北条様は私の頭に手を乗せて撫でてくれた。
「では北条様、自分と護は荷物を運んできます。」
右京は護と一緒に私の荷物も馬車の中に運び入れに行った。右京と護と入れ違いに南野様が私のそばにやってきた。
「お姫様どうかお気をつけてください。」
「はい!行ってまいります。」
「私はあなたのお側にいられないと思うと、この胸が張り裂けそうです。どうかこの赤い花を見つけたら私を思い出してください。この花はどこにでも咲く花ですので北条の領土に行ってもきっと目にすることでしょう。」
南野様は紅千華を渡した。この花は南野様と散策していた時によく見かけた花だった。
「はい、ありがとうございます。では、また。」
私は南野さまから離れ兄さまと兄上の元に向かった。
「兄さま、頑張ってまいります。」
「どうか健康に気をつけて、そして絶対に危ないことはしないで、女の子らしくおしとやかにしているんだよ。」
「はい。もちろんです。」
ごめんなさい兄さまその言いつけは守れそうにありません。
「兄上それは酷なことですよ。このじゃじゃ馬が女らしいことしてるの見たことありますか?私はないですよ。」
「まったく伊吹お前は、、。」
「兄上、兄さまに迷惑をかけないでしっかりお役に立つのよ!」
「言われなくとも!」
「なんと頼もしいことだろう。」
兄さまは兄上とそっくりのいたずらっ子のような笑みを浮かべて兄上の肩に腕を回した。兄上は照れているような表情を見せた。その様子を見て私は家族の温かみと安心感を改めて実感することができた。
「では、そろそろ時間なので行ってまいります。」
「あぁ行っておいで、お前の描く未来のために。」
「はい!!」
「頑張れ!」
「はい!!」
私は兄さまたちに背を向けて、北条さま達が乗った馬車に乗り込んだ。
「みなさん!では行ってまいります!」
兄さまと兄上と南野さまはこちらを見てニッコリ微笑み手を振ってくれた。東さまは軽くお辞儀をしていて、西山のおじさんはいつもの通り親指を立ててニカっと笑っていた。
「北条さま〜どのくらいで着くんですか?て言うか、どこに向かっているんですか?」
「約2、3日だ。そして今向かっているのは私の領土にある真陰と言うところだ。」
「しんいんですか?そんな場所聞いたことありません。」
「護と右京と言ったな?」
北条さまは私の話を無視した。ほーんとこの人たまに失礼よね。そんなに私の話めんどくさいのかしら。
「はい。」
「お前達はなぜついてきたのだ?」
「自分はまだまだ弱く未熟者です。ひなたの役には立てないかもしれません。しかし私はひなたの、いや我が主君のお役に立ちたいんです。」
「ほぉお前の主君はこの姫だと言うのか。」
「はい。」
「俺は、俺は、右京みたいに立派な志のためについてきたわけではありません。きっとひなたが北条さまについていくのは強くなるためだと思ったので、俺はついて行くことにしました。俺は強い大人になりたいんです。そして俺は俺の大切な人たちを守りたいんです。俺が弱い子供だったばかりにひなたを傷つけてしまった。」
護は護で色々考えていて、苦しんでいたんだ。だから最近元気がまるでなかったんだ。私が口を開こうとすると私よりも先に北条さまが護の頭を撫でて、
「お前達私にしっかりついてこい。」
「はい!」
私たちは声を合わせて返事をした。