第8話 交渉
「兄さま。私、半年ほど城を空けます!」
私の手に自然と力がこもる。
「なに?なぜだ、あんなことが起きたばかりだと言うのに、、私が許すと思ったのか?」
兄さまは怒っているような悲しんでいるようなよくわからない表情を見せた。
「許してくれなくとも私は行きます。」
「許さぬ。もうお前は城から出るな。そうすれば危険な目に合わずに幸せでいられる。」
「そうですよお姫様。あなたはこの城の中で美しい笑顔を見せて暮らしていればいいのですよ。」
「私も賛成できませんな、妹様は我らの大切なお方ゆえ。」
「では、皆様は私は一生城の中で笑って過ごすバカな小娘のままでいいとおっしゃるんですか?」
「滅相もございません!全てはお姫様の幸せを祈ってのことです。」
「ならば、私の幸せを願って私をこの城からお出しください。」
「あーあー兄上もうこのじゃじゃ馬は止められませんよ。馬みたいに鼻息を荒くしているし、」
私は兄上から言われて少し恥ずかしくなって、鼻を押さえた。
「しかし私は心配だ。ひなたにもしものことがあれば、私はどうしたらいい。」
「心配ご無用。私が付いている。」
北条さまは音もなく部屋に入って来た。みんなすごく驚いた顔をしている。まぁ無理もない北条さまはほとんど喋らないのだから。
喋らなすぎて、女官たちは北条さまは実は顔がないだとか、魔術使いだとか、挙句の果てには死体だとか言う噂まで広がってるくらいだから。まぁ得体もしれない人なのは確かだけど、悪い人ではない気がする。
「お前がか、、何があったのは知らんが、、致し方ない。」
「なぜですか千歳様!?この得体もしれぬ男に大切な妹様を預けると言うのですか!?」
「そうですよ、お姫様は女の子何ですよ!この男何を考えているかわかりません!」
「いいんです。全て私が決めたことなんですから。」
私は力強くはっきりとした口調でそう言った。
「では自分も連れて言ってください!今度こそ役に立ってみせます!」
「俺も連れてってくれ、ひなた。」
2人も一緒に連れて言っていいか私の独断では決められなかったので、北条の方に目をやると北条は軽く頷いた。
「わかった。兄さまも皆様もこれでいいわね?」
「わかったよ。でも、どうか気をつけるのだよ。北条頼んだ。」
「御意。」
「頑張ってこいよー。北条さまにしっかり鍛えてもらえー。噂によると北の領土の花嫁修行は相当きついらしいぞー!」
兄上は嫌味たっぷりの言葉と嫌味ったらしい笑みを見せた。けれど、心配してくれているのがその兄上の目から読み取れた。
「はい!全力を尽くして来ます。」
「右京今度こそ妹様をお守りするのだぞ!」
「はい、父上。」
「父ちゃん、俺行ってくる。」
護が真剣な顔で西山のおじさんにそう言うとおじさんは、くしゃっと笑って護の頭を撫でた。
その夜、私は新しい旅立ちに向けて荷造りをしていた。何処え行くかはまだわからないけど、なんとも言えぬ期待が心を埋めていた。私はもっともっと強くなれるんではないかと言う気持ちで溢れていた。でも心の片隅ではあのお姉さんが『なんで私を助けなかったの?あなたのせいよ。』と私をせめていた。
「姫様、姫様。」
葵が心配そうな顔で私を見つめている。
「あぁごめん。考え事していたの。」
「そうですか。しかしまぁいきなり姫様が半年城を開けるなんて言い出した時は驚きましたよ。」
「ごめん。」
「謝らないでくださいよ。いつもみたいに元気よく笑ってください。」
「うん!」
私は力一杯の笑顔を葵に見せた。すると葵もニコッとほほ笑み返してくれた。
「それより、私北条様のお声を初めて聞きましたよ。少し低くて色っぽい声でしたね〜私ときめいてしまいましたよ。」
葵は頬に手を当ててうっとりしている。
「もう葵ったら。まぁ北条さま、確かに綺麗な声だったものね。」
「きっと、あの仮面の下も美しいに決まっています。」
「そうかもねー。」
「でも、北条様には恐ろしい噂もありますし、、」
「きっとそんなの全部嘘よ。」
「まぁそうでしょうけど、あのお方なんだか不思議な雰囲気ですよね。まるで神様みたい、いや天からきた王子さまかもしれませんね!」
「なーにバカなこと言ってるのよ。」
「願望ですよ、が ん ぼ う!」
「まったく、あなたの頭の中はいつも恋や愛でいっぱいのようね。」
「それが私の生きがいですから。それよりも、姫様無茶だけはしないでくださいね。」
「うん。ありがとう。」