プロローグ
「おばあさま、お話してくださるの? でも、もう私もレディよ? 子ブタやら小熊が出て来るお話は聞きあきたわ」
最近すらりと伸び始めた腕をいかめしく組んで、少女はシチューの仕込みをしている祖母に言った。
「そうかいそうかい。月のものも来はじめて、そりゃあ、成長するってものだねぇ。なら、そろそろこの話をしてみてもいいかもしれないね」
「なあに? 恋物語?」
「いいや……どうだろうね。おじいさんとおばあさんの物語かねぇ……いや、夫婦の物語かね」
「なあに? まさかおばあさまのむかし話じゃ……」
「違う違う、ここらあたりでは、おまえさんのいうレディになる時期に、みぃんな話してもらうお話さ。昔は吟遊詩人がそりゃ優雅に愛を語ってくれたらしいがねぇ……。今は、うっとりする話ではないのさ。ただね……ここらの娘っ子は、みんな若い時に話してもらって……そう……もやもやしながら、ふと思い出す話なのさ」
暖炉の前に椅子をもってきた二人は、パチパチとはじける音を聞きながら、火に頬を染めながら。
そっと肩をならべる。
そうして腰の曲がった老婆は孫娘に話はじめた。
ギルドラードとイビエラの物語を。
「物語はね、唐突にはじまる。
昔むかし、老いて半身にしびれのあるギルという男とエラというその妻がいた。二人はいろいろあって結ばれた夫婦なんだけれども、老いてもなお二人は仲良い。
けれど、ある日、ギルがエラを呼びとめるんだ。
そう、険しい声でね……」
こうして小さなお話は始まった。