ゾンビが人肉剥ける時
「なぁなぁ、スケルトン。お前って卑怯じゃね?」
「なんだよ急に、社会派にでも目覚めたのかゾンビくん?」
「お前ってさぁ、剣持ってるじゃん?」
「あぁ、シミターとかカットラスとかよく持ってるけど?」
「お前ってさぁ、盾持ってるじゃん?」
「まぁな、今じゃあ風化して読めないけど家紋付きの盾持ってるぜ?」
「あ、そういう昔自慢は良いから。今を生きようぜ、今をさ」
「だから死体だっつってんだろ! あと、俺が騎士出身なのがそんなに気に入らないわけ?」
「あぁ、気に入らない。大いに気に入らない。何でお前は武器持ってて、俺は素手なわけ?」
「いや、持ちたきゃ持てよ、武器を」
「あ~、コイツ解ってねぇ。ゾンビ道を何にも解ってねぇわ。肉と一緒に魂まで捨てちまったってのか? 悲しいねぇ~、実に悲しいねぇ~」
「いや、この骨に魂を縛られて昇天出来ていないのが俺なんだけど?」
「肉があったらしがみ付いて噛り付く、それがゾンビってもんだ。忘れたのか?」
「あ~、そういえばそうだった気もする。遥か昔」
「うわっ、肉が無くなったくらいで先輩面だよ。お前はあれか? 一度くらい女を経験したからって大人になったつもりの思春期の少年か?」
「この野郎、言わせておけばいい気になりやがって!」
「でさぁ、不思議なんだけど、ゾンビが肉を無くすとスケルトンになるっていうじゃん?」
「デジャヴ? まぁ、一部業界ではそうだな。あと、俺の昂ぶりを無視するなよ」
「どうせ昂る部分が無いんだから良いだろ? でさぁ、ゾンビからスケルトンになるのは良いんだけど、その剣と盾ってどこから仕入れれば良いの? 俺、将来が不安なんだよ」
「今お前、世界中のスケルトン業界を敵に回したからな? あとで覚えとけよ? まぁ、確かに不安だよな。俺の場合は、埋葬されるときに剣と盾が一緒だったからなぁ……。剣とか盾とか、何処から手に入れれば良いんだろうなぁ?」
「で、思ったわけよ!!」
「急にビックリさせるなよ!?」
「ゾンビが肉を無くすとスケルトンになるんじゃないんだよ。ゾンビが剣を手に入れるとスケルトンになるんだよ。逆転の発想? コペルニクス的回転って奴?」
「意味不明。詳細求む」
「だ~か~ら~、将来に不安を抱えたまま素手スケルトンになるのって超怖いじゃん? そこで、運よく剣を手にしたゾンビが身を削ってスケルトンになるわけよ。どう、この仮説?」
「あ~、なるほどね。それならスケルトンが武器を持ってることにも不思議はないわ」
「だからさ、くれ。その剣」
「やらねぇよ、アホ」
今日も忘れられた墓地は平和でしたとさ。




