王都〈キングストン〉
「あれ……か?」
かれこれ三時間は歩き、ようやく街が見えてきた。
その途中、何匹かスライムにあったが、全部余裕だった。
動きは単調だし、速いと思った突進も、よく見ると遅い。負ける方が難しい。
遠くに見える街は、城壁で囲われていて、見えているのはスラム街のようだ。
かなり大きいな……ん?
鼻をつくこの匂い……まさかこれは!?
集中して匂いを嗅ぐ。
うん、間違いない匂いだ。海が近いのか?
とりあえず、海辺の大きな街ならば、海上交易で情報もあるだろう。
あの街で帝国の情報収集をして、帝都を目指すか。
それから体感三十分程歩き、城門に辿り着く。
普通に通って良いのか分からないので、門番に声をかけてみる。
「すみません、ここって通っても良いんですかね?」
「ん? 当たり前だろ、どこの人だ……お前、帝国のスパイだったりしねぇよな?」
うっ……逆に怪しまれたか。確かに常識を知らないのは怪しまれるか……言い訳を考えて置くべきか。
とりあえず旅人って事にしとくか?
「実は旅をしておりまして」
「旅? そんな事する奴がいるとはなぁ……ま、いいか。通っていいぞ」
……旅人はやめておくか。
旅をする人が少ない時代なのかもしれない。というかそうなのだろう。
街の前に街道らしきものはあったが、決して整備されてはいなかった。
ただ馬車が通っている内に草がはえなくなっただけだろう。
そんな中で旅行をする奴がいるとは思えない。
街を歩きながらそんなことを考えていると、周囲の視線が俺に集中している事に気がついた。
何でだろ……って服装だな。
そういえば、服は洗って使いまわしにしているので他の物はあまり使っていない。
この世界では、寝るときは裸が常識だ。濡れた服はその間に干しとけば良い。
次の朝に着られれば俺は満足だ……よく考えると、夜なのにやけによく乾いてたな。
ワードが気を利かせて……って無いか。
まずは服を買いに行くか。
しばらく歩くと、それらしきお店を見つけたので、入る事にする。
「すみません、お店は開いていますか?」
ふぅ……敬語はやっぱり慣れないな。
三カ月間一度も使っていなかったからか、門番との会話から言葉が上手く出せないのが分かる。
さほど時間を待たずして、店の奥から人が現れた。
よく見てみると、とても小さい少年が。
「はい、開いていますよ。どのような服をお求めですか?」
と、言ってきた。
「なっ…………子供?」
「失敬な! これでも二十歳ですよ!?」
「わかるか!? 小学生でもおどろかねぇよ!」
「ショウガクセイがなんだかはわかりませんが、馬鹿にされているのはわかります!」
「おい坊主……大人の定員はいないのか?」
「僕は大人です! それと、僕以外はみんな十三より下ですよ、店長の僕と、あと三人だけですが。」
十三より下って……子供しかいないのかこの店は!?
「そうか……悪い、邪魔したな」
そんな店を信用できるわけが無い。別の店を探すか……
「待ってください! お客様はどのような服がお望みですか?」
はぁ……お前らのままごとに付き合っている暇は無い。速く妹を探さないといけないからな。
「あぁ? 子供から服を買うなんて有り得ないだろ」
「だから僕は大人です!! それと、後悔はさせませんので、どうかうちで買ってください!」
「嫌だよ、たいした品物無いんだろう?」
「いえいえ、うちは二百種類の品物を扱っております」
急に営業文句に変わったな……だが、よく店内を見ると、よく掃除もされているし、案外良い店かも。
「仕方ない、ここで買うから黙ってろ」
「あ、ありがとうございます!! ところで、どんな服を?」
「ん、ああ……戦闘でも、日常生活でも使えるような服ってないか?」
「あ、分かりました! でしたらこれなんかどうでしょう?」
少年がガサゴソと音をたてて、棚の奥から黒い服を持ってきた。
「ふーん、頑丈そうだし、値段も……」
やっば……金持ってきてねぇ……。
そう思うと、突然背中に違和感を感じた。
なんだ……これは、硬くて薄い物が……貨幣!?
取り出してみると、手紙と銀貨らしき物があった。
手紙を見てみるか、えーとなになに? 『忘れ物をしちゃたなんて、マジ爆笑』イラッ……
「これを買う、代金は銀貨三枚あれば足りるか?」
「い、一枚でも多いですが……おつりをだしましょうか?」
「ああ、頼む」
気が利く奴だ、子供のくせに。
さて、服も買ったし、宿でも探すか。