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シスコン転移者の英雄譚  作者: 初鰹
第一章~異世界「インセティクト」~
7/8

三カ月後

あれから三カ月たった。



今まで何をしてきたのかというと……ただひたすら剣を振っていただけだ。

人形を切らされてからというもの、飛んでくるボールだの、なにやら硬い物体だの、色々と切らされた。

これで本当に強くなったのか……。


「君は十分に強くなったよ、おめでとう、これでようやく旅にでられるね!」

「ただ剣振ってただけだろ!?」


「いやいや、その状態でそんだけ動ければ十分だよ」


「その状態?」


「ああ、前は教えなかったけどね? この世界は君の世界より物が軽いのだよ」


「重力が弱いって事か……だとしたら、俺は軽くなっているのか?」


全く気づかなかったのだが。


「それなんだけどね……僕の超魔法で、君にかかる負荷を、普通の三倍にしたのさ!」


へぇ、魔法でそんな事もできるのか。道理でなにも変わらないわけだ。


「あれ、驚きが薄いなぁ……でもね、なんとなんと、君が魔力を背中に集めて。無よ、背の陣への供給を停止せよ、【フェアボート】「うわっ、おいっ!」プッ……どうだすごいだろう」


身体が、軽くなった……。


「その状態で戦えば、君は普通の人の三分の一の負荷で動けるのだよ」


へぇ、確かにね。


「でも、なんで背中に魔力を集めるんだ?」

「それは君の背中に魔法陣が書いてあるから「はぁ!?」えっ、なにをそんなに……」


マジかよ……背中に魔法陣とか……完璧に中二病だろう。


「はぁ……仕方ない、か」


魔法陣が無ければ、魔法を循環させて維持する事ができないらしいからな。


「な、なんだか知らないけど、落ち着いたみたいだね……あ、ちなみに普段は負荷をかけておいてね」


この通りに詠唱すればいいからとかみを渡される。


普段負荷をかけておく理由は、そうしないとここの重力に慣れてしまうからだろう。

コイツに貰った日本語の通りに詠唱する。

ワードは、日本語を教えた次の日に、五十音と基礎の漢字を覚えてしまったのだ。

羨ましい脳みそである。バカにされたくはないので、口にだすことはないが。


「無よ、背の陣へ供給を再開せよ?【エントヴィッケルン】──ガクッ──うわ、身体が重い……」


はぁ~、一気にだるくなるな……。


「ふむふむ、自分で魔力を操れるようになっているね」


「俺は喋っただけだが」


「本当かい? ……普通はそうはいかないんだけど……惜しい才能だね。属性魔法が使えなくて残念だよ」


くっ……反論できねぇ……でも、俺は悪くないよな。


「ま、ありがとな。じゃあ行ってくる」


最後だし、お礼でも言っておくか、世話になったし。


「おうおう!? お礼を言うとは……ブフッ爆笑」

「死ねこの野郎」


もう二度とコイツにお礼は言わない。

最後にそう言い残し、俺はワードの研究所を出た。



×××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××


しばらく平原を歩くと、重要な事に気がついた。


「服と剣以外、なにも持ってきてねぇ……」


と言うことだ。方向はあっている筈だし、三時間もすれば街へ着くらしいが。

水も無いとは……うっかりしてたな。



「キシャアアア!!」

「──っ!」


お、早速モンスターが現れたか。

声の方向を確認すると、緑色の物体を発見する。

ジェル状の生き物……スライムか。


「すー、はぁー」


深呼吸をして息を整え、剣を構える。

ワードからは特になにも教えてもらえなかったので、自己流だ。

てかスライムに剣って、ダメージはいるのか?

本棚にあった本でも読んどけば良かったな。


そうこう考えているうちに、スライムが飛びかかってきた。

「シャアァァァ!!」

「なっ!」

痛っ……案外速い!右肩をかすったみたいだ。

緊張で全く体が動かない。

だが、重力の付加を軽減する必要は無さそうだ、今のスライムの突進で後ろに回りこめた。

魔力を回して、剣に纏わせる。こうする事で剣の残像が残り、綺麗な字……斬激を書ける。


「ふぅー……【行書一文字】」──ブォンッ。


振り返りざまに横凪に斬りつけると、一の字が空中に描かれる。

声をだした理由は、魔力を具現化するには声が必要だからだ。決して俺が中二病なのでは無い……無い。

切り裂かれたスライムは、緑色のジェルを散らして動かなくなった。

…………死んだのか?


ツンツンしても動かない……あっけない初勝利だ。


まぁ倒して何があるわけでもないようだ、先を急ぐとするか。



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