三カ月後
あれから三カ月たった。
今まで何をしてきたのかというと……ただひたすら剣を振っていただけだ。
人形を切らされてからというもの、飛んでくるボールだの、なにやら硬い物体だの、色々と切らされた。
これで本当に強くなったのか……。
「君は十分に強くなったよ、おめでとう、これでようやく旅にでられるね!」
「ただ剣振ってただけだろ!?」
「いやいや、その状態でそんだけ動ければ十分だよ」
「その状態?」
「ああ、前は教えなかったけどね? この世界は君の世界より物が軽いのだよ」
「重力が弱いって事か……だとしたら、俺は軽くなっているのか?」
全く気づかなかったのだが。
「それなんだけどね……僕の超魔法で、君にかかる負荷を、普通の三倍にしたのさ!」
へぇ、魔法でそんな事もできるのか。道理でなにも変わらないわけだ。
「あれ、驚きが薄いなぁ……でもね、なんとなんと、君が魔力を背中に集めて。無よ、背の陣への供給を停止せよ、【フェアボート】「うわっ、おいっ!」プッ……どうだすごいだろう」
身体が、軽くなった……。
「その状態で戦えば、君は普通の人の三分の一の負荷で動けるのだよ」
へぇ、確かにね。
「でも、なんで背中に魔力を集めるんだ?」
「それは君の背中に魔法陣が書いてあるから「はぁ!?」えっ、なにをそんなに……」
マジかよ……背中に魔法陣とか……完璧に中二病だろう。
「はぁ……仕方ない、か」
魔法陣が無ければ、魔法を循環させて維持する事ができないらしいからな。
「な、なんだか知らないけど、落ち着いたみたいだね……あ、ちなみに普段は負荷をかけておいてね」
この通りに詠唱すればいいからとかみを渡される。
普段負荷をかけておく理由は、そうしないとここの重力に慣れてしまうからだろう。
コイツに貰った日本語の通りに詠唱する。
ワードは、日本語を教えた次の日に、五十音と基礎の漢字を覚えてしまったのだ。
羨ましい脳みそである。バカにされたくはないので、口にだすことはないが。
「無よ、背の陣へ供給を再開せよ?【エントヴィッケルン】──ガクッ──うわ、身体が重い……」
はぁ~、一気にだるくなるな……。
「ふむふむ、自分で魔力を操れるようになっているね」
「俺は喋っただけだが」
「本当かい? ……普通はそうはいかないんだけど……惜しい才能だね。属性魔法が使えなくて残念だよ」
くっ……反論できねぇ……でも、俺は悪くないよな。
「ま、ありがとな。じゃあ行ってくる」
最後だし、お礼でも言っておくか、世話になったし。
「おうおう!? お礼を言うとは……ブフッ爆笑」
「死ねこの野郎」
もう二度とコイツにお礼は言わない。
最後にそう言い残し、俺はワードの研究所を出た。
×××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××
しばらく平原を歩くと、重要な事に気がついた。
「服と剣以外、なにも持ってきてねぇ……」
と言うことだ。方向はあっている筈だし、三時間もすれば街へ着くらしいが。
水も無いとは……うっかりしてたな。
「キシャアアア!!」
「──っ!」
お、早速モンスターが現れたか。
声の方向を確認すると、緑色の物体を発見する。
ジェル状の生き物……スライムか。
「すー、はぁー」
深呼吸をして息を整え、剣を構える。
ワードからは特になにも教えてもらえなかったので、自己流だ。
てかスライムに剣って、ダメージはいるのか?
本棚にあった本でも読んどけば良かったな。
そうこう考えているうちに、スライムが飛びかかってきた。
「シャアァァァ!!」
「なっ!」
痛っ……案外速い!右肩をかすったみたいだ。
緊張で全く体が動かない。
だが、重力の付加を軽減する必要は無さそうだ、今のスライムの突進で後ろに回りこめた。
魔力を回して、剣に纏わせる。こうする事で剣の残像が残り、綺麗な字……斬激を書ける。
「ふぅー……【行書一文字】」──ブォンッ。
振り返りざまに横凪に斬りつけると、一の字が空中に描かれる。
声をだした理由は、魔力を具現化するには声が必要だからだ。決して俺が中二病なのでは無い……無い。
切り裂かれたスライムは、緑色のジェルを散らして動かなくなった。
…………死んだのか?
ツンツンしても動かない……あっけない初勝利だ。
まぁ倒して何があるわけでもないようだ、先を急ぐとするか。