【筆剣】
「ふわぁ~」
今何時だ……って異世界か。学校もバイトもない。
俺はすぐに立ち上がり、部屋を出る。
「おっ、蓮斗君。起きたみたいだね」
リビングらしき部屋から、見ているだけでムカつくイケメンスマイルをむけてくる。
「ああ、今日から俺を強くしてくれるんだよな?」
リビングに歩きながら話しかける。
「うん、日が落ちるまではね。日が落ちてからは君の世界のことを聞かせてもらうよ」
それなら問題ない……ん?
「今の季節は?」
丁度冬とかだったらこちらが損をする。
「蓮斗君、絶対友達少なかったでしょ、こんなに疑り深い人久しぶりだよ……春と夏の間ですよ」
相変わらずの口調はともかく、それなら良いだろう。
嘘をついていたなら、話さなければ良いだけだしな。
「了解した」
「それでいいのだ蓮斗君! 朝ご飯を食べたら早速始めようか」
朝ご飯?
そう思ってテーブルをみると、目玉焼きにハム……案外普通だな。
「ああ、そうしてくれ」
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ふぅ~普通にうまかった。
「じゃあ、早速頼む」
「いいよ、とりあえず外に出ようか」
外に出ると、大平原にポツンと藁人形が置いてある。
「まずは君の魔力属性を調べさせてもらうよ」
「魔力属性?」
「はぁ……説明しても無駄だろうから、とりあえずこの純魔石を握ってくれるかな」
人をイライラさせる才能でもあるのかコイツ……。
まぁいいや、この何かと綺麗な石を握ればいいんだな
「っ!」
白い……光?
「ふーん無属性。つまんないなぁ……まぁ魔力はそこそこみたいだし、なんとか……なるかな?」
何かあまり良くない属性みたいだな。
「無属性は何ができるんだ?」
小説だと、身体能力の強化とかそんな所だったような気がするが。
「何もできないよ?」
「え……何も?」
「うん、君は魔法の才能に乏しいようだよ。まぁ剣でもなんとかなるかな?」
才能が無い……異世界人補正とか無いのかこの世界。
でも剣も使ってみたいかも、いやでも血を見る事になるのか……ってか他に選択肢は無いのか。
槍とか棍棒とか…………いや、剣の方が汎用的か。
「まぁ魔法よりは絶対的に不利だけどね」
「なんでだ? 魔法を躱す事ができれば、間合いを積めた剣の方が有利になるだろう」
「君は僕の魔法を見ていなかったのかい? 速すぎて躱せないんだよ」
確かに、言われてみると一瞬だったな。
「まぁ、君にはしかけを用意しているから、剣でも大丈夫だろう」
しかけ?
「おい、しかけって──「剣を教えてほしいかい?」チッ……」
絶対コイツは好きになれない……強くなったら絶対に仕返ししてやろう。
「うんうん、それでいいんだよ。はい、とりあえず剣持って」
こっちに倒された剣をとる。左右に湾曲した歪な形だが、一応剣だ。
「その剣は僕の最高傑作、聖剣【ツングース】だよ。君にこれをあげるから、藁人形を切ってみなさい」
「うおっ……」
刃が剥き出しの剣を投げられた。
剣の柄をキャッチすると、お、お見事! とか言い始めた。いや、キャッチできないと切れるだろうが。
あ、かわせば良いのか、うっかりが多いとこの先危ないな……ま、とりあえずこの剣を観察するとしよう。
持つ部分は焦げた皮のような色をしている、質感も獣の皮のようだ。
刀身は長く、持つ部分から離れるにつれて細くなっている。大きさと形状からして両手剣だろう。
聖剣とか言っていたが、流石に地味すぎる……ただのホラか?
とりあえず、人形切れと言われたが……どうすればいいのだろうか?
重さは大筆と同じぐらいか、はらう感覚でいいのかな?
「ぐっ……」
剣を横にはらうが、すぐにとまってしまう。
書道のクセで速度が遅いのか? ……今度は行書書きの要領でやってみるか。
剣を水平に構え、一文字を書くように剣を振るう。
「はあぁぁっ!」──ズサッ。
よし……上手くいったかな?
「これでいいか?」
なんだ、大口開けて。
何かとミスったか……初めてだから仕方ないだろう?
いちいち馬鹿にされてたら流石にキレそうだ。
「あ、ああ……君はなにか武道でもやっていたのかい?」
「武道はやってないぞ?」
学校の授業で柔道をやらされた事ならあるが。
「へぇ……それにしては堂には入った動きだったけどね」
「あ~……まぁ、筆を振るのは得意だからな。字を書くときと同じだろう?」