観察者〈オブサーバー〉
いよいよ物語が動き出します。
え……なんで俺の名前を知っているんだ?
身分証も何も持っていなかったはずだ、一体どうして……
いや……記憶を探る魔法?
「クッ、ハハハハッ、やっぱり面白い顔をするね──安心してよ、記憶は見てないからね」
イラッ……でも違うとするとどうやって……
「魔法にはね、その人特有の属性……固有魔法と言うものがまれにあるんだ」
青年は続ける。
「僕は固有魔法を持っていてね、観察者って言うんだけど、それでチキュウを覗いていたんだよ」
観察者……どんな魔法かは分からないが、意味は分かる。
「それで俺を発見したのか?」
「うん……かれこれ、三年前の事だね」
「三年前……だと?」
コイツ……【神隠し事件】の事を知っているのか?
「ククッ、心は読めないけど、表情で分かるよ。 ああ……確かに知っているよ」
コイツ、三年間俺を観察してたのか? でも一体何の為に……
「ハハッ、本っ当わかりやすい表情するなぁ……僕の目的は観察だよ? 観て楽しむのが目的さ」
イラッ……落ち着け落ち着け。
「俺を見ていて面白かったのか?」
「うん、だって君は、もうどこにも存在しない妹を必至に探していたからね、傑作だったよ」
あぁ? 加奈が死んだとでも言いたいのか?
「はぁ、そんな反抗的な目でみるなよ──わざわざ君を妹がいる世界につれてきてあげたのにさぁ」
何……だと……
今……なんて言った。
「本当非道い話だよ──ドカンッ──うわっ、なななにっ!」
思わず掴みかかってしまった。
「今の話は……本当、なんだろうな?」
「う、うん……三年前、帝国で大規模召還魔法が行使された、きっとその時にここに来たんだよ」
いるんだ……
この世界に、加奈は……いる!
そうと決まればやることは一つだ。
「おい金髪」
「へ……き、金髪? 失礼だなぁ、僕の名前はワード・フォン・プリズナーと言う──「ならワード」なんかいきなり性格変わりすぎじゃないかいキミ?」
「どうしたら加奈に会えるのか……俺に教えろ」
会えるんだ……加奈はこの世界に──「無理だよ」……なに?
「今の君じゃあ、出発三十秒で死ぬよ」
なっ。
いや……冷静に考えてみると確かにな。
俺がゴブリンみたいなのに襲われたら、ひとたまりもないな。
「俺はどうしたら加奈に会えるんだ」
「僕の魔法で調べたけれどね、君の妹さんは帝国の第一軍に保護されているんだよ? よっぽど強くならないと──「分かった、俺が強くなればいいのか。ワード、俺に稽古をつけてくれ」ってえぇぇぇぇぇ!?」
ん?……加奈に会うためだ、俺は何でもするつもりだが。
「なんだ、何か問題があったか?」
「ククッ……いやぁ、君はシスコンの鏡だね、ある意味感心したよ、あっぱれだね。ププッ……まぁ僕が連れて行くわけにもいけないし、まぁいいよ。とりあえずここから町に移動できるぐらいには、強くしてあげるよ」
訂正を入れるとしたら、俺はシスコンではなく、家族思いなだけだ。
まぁ……加奈に会えるなら何でもいいか。
「ああ、感謝する「ただし」……何だ?」
あまりめんどくさい要求は嫌なんだが。
「実はね、僕が観察できたのは君の部屋のみなのさ、だからチキュウの事を詳しく教えてくれ」
「そんなんでいいのか?」
いや確かに心の中ではああ言ったけどさ、よく考えるとこっちが得をしてばかりなのではと……
「うんうん! 十分だよ、僕は魔法研究家だからね……新魔法開発のアイデアになりそうな物はなんでも知りたいのだよ」
まぁそっちがいいなら、良いのだが。
ではこれで……
「交渉成立だな」
「うん、よろしく頼むぞ連斗君!」