運命の世界へ
会話です……
「んっ……ふぁぁ」
……知らない天井だ。
何か柔らかい物に寝かせられている感覚だ。
周囲を見回すと、左は壁、右には沢山の本が並んだ大きな本棚と、カラスのような鳥が見えた。
後ろには扉、前には……武器が飾ってある……。
これは間違えなく俺の家じゃ無いな。
家の鍵はかけた筈だし、俺の身に何かあったのだろうか。
誘拐……がこんな快適だったら貧乏人は喜んで誘拐されるだろうな。
加奈は誘拐された先が家より快適だったから、そっちに住みついたとか……さすがに無いか。
「あれぇ、目を覚ましたのかい?」
ドアの開く音と共に、ソプラノの高い声が耳に入る。
俺は上半身を起こし、後ろを振り向いて姿を確認する。
「よく眠れたようだ、うん、よかったよかった」
え……男?
どうやら、俺の目か耳がおかしくなったらしい。
もしかして俺は頭でも打って運ばれて来たのだろうか。脳に損傷があるのならこの青年の声がおかしく聞こえたのも説明がつくが。
いや、もしかしてオカマ?
「あぁ、驚かせてしまったかな?」
あれ? 高い声だが、確かに男の声だ。
まぁ、おそらくさっきは俺が寝ぼけていたのだろう……このまさしく王子様的な青年が女声を出せるとは思えない。
おっさんの容姿は金髪でイケメン、細身だが体格も良い。
──ってそんな事はどうでもいい。
今は状況を整理するために、少しでも情報が欲しい、この人は確実に何か知っているだろう。
今は情報を聞き出す事が最優先事項だ。
「いえ、大丈夫ですよ」
バイトの面接の際に利用した、『とりあえず敬語』スキルが発動する。
「本当かい? その割におもしろい顔をしていたけれど」
地味にムカつく人だな……。
「ハハ、寝ぼけていたみたいでして、変な声に聞こえたのです」
「あぁ、今のは魔法の実験──って君たちの世界に魔法は無いのだったね、うっかりしていたよ」
この人真顔で……ひょっとしてあれな人? 中学二年の頃によく発症するあれ?
いい年してかわいそうに……ここはとりあえず、話をあわせておくべきかな?
「手品でもおやりになるんですか?」
おそらくだが、何かしらの手品で声を変えたのだろう。
多分ヘリウムガスかな、あれ声が変わるらしいし。
「信じてないね~その顔は、めんどくさいな~」
本当にいちいちとムカつく話し方だな……。
「見せてあげた方が早いかな?」
手品でも披露してくれるのか?
正直そんなことよりも、俺がどうしてここ──「フォイアー」
青年の声が響くと、青年の手に魔法陣が現れ、火が飛び出してきた。
火は球状になり、空中を旋回した後、白いもやを残して消えた。
「マジかよ……」
嘘だろ……確かに炎から熱気を感じた。
プロジェクションマッピングやホログラムならば温度まで再現できない筈だ。
もしや今年のオリンピック開会式で使う新技術だったり……な訳ないか。
あれこれ考えたが、何が何だかさっぱりだ。
俺が疑問を口に出す前に、青年が口を開いた。
「驚いたかい? これが魔法だよ。異世界人君」
…………イセカイジン?
「えっ?」
「ププッ、アハハッ! 君も本当に滑稽な反応をするねぇ、ハトが豆鉄砲くらったようだよ!」
ムカッ
そろそろ殴りたくなってきた。
礼儀を知らないのかコイツ──ってそうじゃなくて。
「俺が異世界人とはどういう事ですか?」
魔法云々よりも重要な事だ。
「はぁ……僕さぁ、堅苦しいの苦手なんだよね~、普段通りの話し方で頼むよ」
いちいちイライラする話し方だな……いい加減疲れた。
「ああ、分かった。 これでいいか?」
「うんオッケー、これからその話し方で頼むよ」
それは分かったから早く答えてくれ。
「それで質問の答えだったね……なんと君は、僕の偉大なる召還魔法によってここに召還されたのだよ! 分かったかな?」
えーっと……それってつまり、
「ここは地球じゃないって事になるのか?」