暗転する世界
本編スタートです。
「お兄ちゃん、お菓子奢ってよ!」
加奈が俺の袖を引きながらせがんできた。
「奢るって……お前金稼いでないだろう」
「むぅ、よーし、買ってくれないと先輩にお兄ちゃんが私の──」
「──わあぁぁぁぁ! 分かったから、買ってやるから!」
脅迫かよ、俺はそんなふうに育てた覚えはない。
まぁ、バラされたら残り少ない中学校生活が悲惨な事になるので、逆らえないが。
「じゃあこれにするから、お会計よろしくお兄ちゃん!」
はぁ……しかたないか。
ん? あれ、百円ががぼやけて──
「──っ!」
…………
周りを見てみると、目覚まし時計とカレンダー以外の物は見当たらない、殺風景な寝室だった。
夢……だったのだろう。
八時にセットされた目覚まし時計を解除して、天井を見上げる。
三年前、加奈が失踪してから、三日に一度は加奈の夢をみるようになった。
それでもここまで鮮明に夢をみることは無かったのだが……。
疑問に思い、何かの記念日だったかとカレンダーをみると、今日は四月八日、丁度三年前神隠し事件があった日だ。
どうりで加奈の夢をみたわけだ。
あいつ……元気にしてるだろうか? 考えても見当もつかない。
ちなみに俺は高校を資金不足で中退して、就職先を模索中と言う酷い状況なので、元気ではない。
はぁ……今日は昔の思い出に浸って、家でゴロゴロしていたい気分だ。
まぁ、んなこといってもバイトが休みになるわけでは無いのだが。
重い足を動かしてなんとか立ち上がると、コンビニで買ったミニクロワッサンを口に含んむ。
うん、うまい。
バイトは九時スタートなので、後一時間程だ。
俺は暇つぶしに木刀を振る事にした。
あの日から俺は書道を離れ、武道に打ち込んだ。
とはいってもお金がないので、本やテレビを見ての見よう見まねだ。
一通りの動きを試すと、八時半になった。
職場まで十五分なので大分早いが、余裕をもって行動して悪い事はないので、家を出る事にした。
着替えを済ませて持ち物を確認。 うんいいな。
「いってくる」
そう何時ものように呟き、家を出た。
今日もバイトだ、頑張って稼ぐとしようか!
「はぁ……」
やっと終わったか、疲れたぁ。
八時間程働いてやっと一息つくと、電話がかかってきた。
今時ガラケーって、カバンからだすのが地味に恥ずかしいな……。
パカッとガラケーを拝見すると、親友の勇馬からだった。
勇馬とは三年前からの付き合いだ、出会いのキッカケは事件で同じ捜索チームに所属した事だ。
「蓮斗、今日暇か?」
「暇、じゃないが……なんの用だ?」
「今日は皆で集まって今年の捜索会議をするんだが、来れるか?」
そう、俺はいまだに加奈の捜索を諦めていない。
俺や勇馬など、神隠しで大切な人が失踪した人、十四人が集まって、捜索チームを作っている。
「悪い、今日は……」
「いや、いいよ。そりゃあそうだよな、事件の日だし、殆ど人が集まらないし、中止にするか!」
「そうか……悪い」
今日は……どうしても家で過ごしたい。
「いいっていいって! ハンカチいるか?」
「別に泣くわけじゃ、ねぇし……」
ケーキ買って食べて寝るだけだ……泣く要素がない。
「じゃ、またな蓮斗」
「あぁ、またな」
ふぅ……
よし、ショートケーキ買って帰ろう。
俺は近場でショートケーキを買い、家へ帰った。
「ただいま~っと」
家に帰ると、着替えてすぐケーキを切り分け、半分を食べる。
うん、かなりうまい。
その内の一切れを、加奈の部屋に持って行く事にした。
別にお供え物とか言うわけではないが、まぁなんとなくだ。
朝とは別の理由で重い足をあげると、しばらく入っていない加奈の部屋へむかう。
そういや加奈はショートケーキが大好物だしな……。
「う……」
目にゴミが入った……廊下も掃除しないとな。
俺は目にゴミを入れたまま、加奈の部屋に入った。
「なっ──」
その瞬間、強烈な熱気と共に、意識がブラックアウトした。
駄文乙ですね……。