妖怪か人間か
スキアーが来たあの日から、社が消滅した事を紫に告げられた。社はそんなに大事では無いのだが、無いと困るらしい。なんでも「約束の日」が来るらしいのだ。
そして今日、守は人里に来ていた。霊夢にお使いを頼まれたのだ。
幻想郷に来て既に一週間以上たっているのだが、初めて訪れた。周りの人達は活気が溢れている。
「幻想郷に外れなしだな。どこ行っても楽しいや……」
あの最初に出会った妖怪を思い出し、ちょっと苦笑した守が、大通りを歩いていると前からメッシュのかかった髪をした女の人が歩いてきた。ぼーっと守が歩いていると、その人がいきなり話しかけて来た。
「君!ちょっと!」
「ふぇっ⁈な、なんでしょうか?」
結構焦った。何も考えてない時に話しかけられたからだ。しかし何の用だろうか。そんなことばかり考えていたら、その人が口走ったのはあまりにも信じ難い言葉だった。
「なんで君から妖力を感じるんだ?」
「……は?」
間抜けな声しか出ない。だって俺はれっきとした人間。妖怪の力である妖力が有るわけ無い。確かに夜には窓の近くや外には行くなって親にきっつく言われてたが、俺の体に悪いとかなんとか言われただけだったし。
「えっとどう言う事ですか?」
「君まさか私と同じような奴か?例えば満月の夜に妖怪になるとか。」
「いやいやナイです。……多分。」
そう信じたい。そっちの思考の方が大きくなる。というよりオオカミ男じゃないんだからそんな事はないだろう。
「おっと、失礼した。私は上白沢慧音。ここで寺子屋の教師をやっている。半人半獣だ。」
「俺は文月守です。外来人で今博麗神社に居候してます」
その後、しばらく問いただされたが特に何も無かった。しかし今日は満月だそうだ。調べても良いかもしれない。
俺は霊夢に頼まれた買い物を済ませて博麗神社に帰った。
ー博麗神社(夜)ー
「よし、月光に当たってみるか。」
そう言って襖に手をかけた時、強烈な気配を感じた。外に誰かいる!しかもその辺の妖怪じゃない!体中が警報を鳴らす。凄まじいまでの力が襖越しに伝わってくる。
「誰ですか?」
「ほう……敬語で話すとは、中々真面目君だな。俺は次元龍神。まあ、名前なんか教える程立派じゃねぇ。」
次元龍神。そう名乗った声は男の声だった。こないだ来たスキアーでは無い。彼よりはまだ若い感じだ。
「貴方は何が目的で、博麗神社に?」
「お参り?いや違うな小裁さ……小裁にお参りしても意味ないしな。」
「真面目に答える気ありますか?」
「無いな。微塵も無い。」
今出ていってもとてもじゃないが勝てない。そんな感じがする。それにしても何故小裁さんを言い直したんだ?
「さて、本題だ。月光に当たるのは止めておけ。大事なもんを無くしたくなけりゃな。話はそれだけだ。じゃな!」
「ちょっとまっ……あ、」
初めて月を見たかもしれない。俺は勢いに任せて襖を開けて、月光に触れた。
あぁ……月ってこんなに
「綺麗だったん……」
そこで、意識は月光の中へと溶けて行った。満月をみた守は意識を失い、嫌な夢をみた。
自分が霊夢の右腕を引きちぎり、紫をあっという間に倒して、スキアーが来て倒される夢だ。夢にしてははっきりしているし、何故か自分が二人になった様な変な感じがする。
守は布団で寝かされて居た。変だ、確か昨日は布団で寝て居ない。その違和感で飛び起きた。嫌な予感がする。守は廊下を走って博麗神社の中を探し回る。
「頼む……!夢であってくれ!」
「残念ながら現実よ。」
そう言ったのは紫だった。しかしえらくボロボロな姿だった。服は所々破けており、露出した皮膚は少し火傷している。
「一体何がどうなってるんだ⁉︎お願いだ、紫さん!教えてくれ!昨日何があったんだ!霊夢はどうなったんだ!」
一番守が知りたいことを抜かして、紫は答えた。
「一言で言うなら、貴方は不完全な存在よ。妖怪と人間のハーフ。でも、どちらとも言えない何かがある。後、霊夢は腕をある人に創り直してもらったわ。まだ安静だけど、確か名前は朧蒼だったわね。」
「そんな事じゃなくって!昨日俺はどうなったんだよ!」
「黙りなさい!」
紫は守を睨んだ。かなり怒っている。
その表情には悲しさも混じっている様に見えた。
「貴方はまず、一度冷静になりなさい。今一番貴方が心配すべきことは何?貴方が一番迷惑かけた相手に謝りに行くのが先よ。」
「……そうだ。霊夢!」
守はすぐに博麗神社を飛び出して行った。
しかし、そのスピードは人間の物ではなく最早妖怪だ。
「まさか、月光を浴びるだけで妖怪の血が活性化するなんて……今の守はもう人間でも妖怪でも無い不完全で不安定な存在。なんでこんな事に……」
一人紫は博麗神社で、佇んでいた。
ーー次元の狭間ーー
「クカカ……あれが今回のターゲットか?」
「言い方が悪いですよ。ターゲットじゃ無い。ただ、力をコントロールできるよう仕向けるだけです。わざと月光に当てたのは失敗だったようですが。」
スキアーと、もう一人の白髪の男が真理の扉に力を注ぎながら喋っていた。
ちなみにこの扉を使い、ある物を創るのが目的だ。
「さて、あのガキは俺達を止めにくるか?」
「知りませんよ。並行世界を操れる訳じゃ無い。」
「だな。クカカカカカ!」
ーー迷いの竹林ーー
俺は力の場所を探知しながら、竹林を歩いていた。頭の中は霊夢に謝る事で、一杯だった。無意識に力の探知が出来るようになっている事はこの際気にしていられない。一刻も早く謝りに行きたいのだ。
「どこだ……確かにこの辺りに霊夢の力を感じるのに!」
必死で探し回る内に、日も暮れてくる。
すると急に頭の中から声が聞こえてきた。
(俺様に替わりな!てめえじゃチンタラしすぎて日が暮れちまうぜ!)
「だ、誰だ⁉︎いつの間に俺の体に入った⁉︎」
(うるせーな!俺様はお前なんだから最初っから居たんだよ!)
「まさかお前が霊夢を……ッ!」
(残念ながらそれは知らねえな。お前が俺様に耐えられなかったのが悪いんだよ。さっさと探しやがれ、日が暮れちまうって言ってるだろうが!)
なんなんだこいつは。いきなりでて来た割に偉そうだ。
しかも霊夢を襲ったのはどう考えてもこいつだ。まさか……こいつが俺の妖怪としての部分なのか?だとしたら、気分が悪い。
うるさく命令してくる声を基本無視して、守は霊夢を探すのだった。
ちなみに小裁は霊夢がやられた時、分社の方にいました。